ある時オヤジが
「オ二ィー(防人のこと)は五能線を知っているか?」
「五能線?・・・・」
「そうよッ、青森と秋田の日本海側を走る単線の列車よッ。その線路に沿って、いくつも川が日本海に注ぎ込んでいるけど、そこでは海からわずかの所でイワナが釣れるのよォーッ」
「え”えーッ!イワナは深山幽谷に住む魚なんだから、そんな海の近くでつれるわけないだろうーッ」
「釣れるのよォーッ!兎に角、オニィーも一度釣りに行ってみるといいよ」
この時のオヤジとの会話はその後、心のどこかにいつも必ず引っかかり続けていて、ことあるごとによみがえって来て、『海のそばでイワナなんて釣れるのか?』という疑問はいつの頃からか『海を見ながらのイワナ釣りなんて、なんてロマンあることだろう。一度そんな河川で釣ってみたいもんだ』という願望に変容していった。オヤジが3年前に他界して、その一回忌で”オヤジの愛した薬師谷”を訪れた時、早池峰山荘周辺はきれいなキャンプ場として整備され、バンガローやキャンプ場は人で溢れ、にわか釣り師が谷(薬師谷)にチラホラ散見され、昔の秘境感は消失し、時の流れを痛感したのだった。
『オヤジの愛した薬師谷も大衆化してしまった。いつまでもオヤジに頼るわけにもいかんッ。ここは青森辺りまで足を延ばし、防人独自のイワナ釣りの川を発見しなくては!』と思ったのだった。そして、青森辺りの地図を眺める機会が増えてくるに従って、オヤジの言っていた”五能線”も当然目に入るようになる。そして、その五能線の走る海岸沿いを北にさかのぼっていくと、有名な不老ふ死温泉を越えて、津軽平野、十三湖を経て竜飛岬にたどり着く。確か竜飛岬は石川さゆりの有名な演歌で、”北のはずれ”と歌われていたはずだ。
ごらんあれが 龍飛岬
北のはずれと
見知らぬ人が 指をさす
息でくもる 窓のガラス
ふいてみたけど
はるかにかすみ 見えるだけ
この北のはずれの竜飛岬こそは、五能線が走る場所より緯度が高く、そこの沢たちには海のそばからイワナが住んでいるに違いない。まさに、『海を見ながらのイワナ釣り』を実現するにはうってつけの場所ではないか!更に、本州最北端の下北半島なんかも良いかもしれないぞ。という事で、今回はオヤジのお弟子さんのYa氏と共に、三回忌も兼ねて薬師谷に行ったついでに、下北半島・龍飛岬の沢たちで釣りをしてみようという事になったのだ(というより、下北・龍飛のついでにオヤジの三回忌もしよう?という事だったかも!)。
8月2日の夜8時、まずはYa氏をピックアップするために海老名に向けてさきもりちゃんのエンジンを点火したのだった。

さきもりちゃん(我が家のDefender90)の後部座席を取り除き、完全フルフラット化し、そこに荷物を詰め込む。半分は海老名から乗ってくるYa氏の荷物のために開けておかなくてはね。

下道が好きな防人だが、流石に1000㎞走る行程では高速を使うことにしないと、釣りの時間が無くなってしまう。23時に新東名の沼津SAに到着する。ここから圏央道分岐までは40分くらいかな。

海老名から首都高、常磐道と走り継ぎ、無料の三陸道を北上。岩手大船渡付近の道の駅で小休止!降りてみたら、タンクトップ短パンの防人は「寒い」と思ってしまった。

午前11時に陸中川井のお蕎麦屋さん「うちさわ」に到着。前回の一回忌の時は"かつ丼”を食べたのだけど、今回は別なものを食べてみようかなぁー!

今回は"天丼"を注文してみた。これも美味しかったが、明日は"かつ丼"を再び注文してみようと思う。

薬師谷早池峰山荘に到着。正面は早池峰山(1917m)だ。昨日までの一週間は連日雨だったらしいが、今日はカラリと晴れ渡ったとのこと。川は増水気味だ。
薬師谷のタイマグラキャンプ場にある早池峰山荘に到着したのは正午頃。山荘当番の女の子の話によると、ここ一週間は雨続きで、正面に早池峰山を見るのは久しぶりとこのと。確かに、途中の北上川は大増水だったし、閉伊川もかなりの増水だった。薬師谷本谷も昨日に比べてかなり減水したようだが、それでもまだ水は高いようで、ドライフライフィッシング(水に浮く毛ばりで釣りを楽しむこと)には少し不利な印象を受ける。まあ、一晩立てば微増のベストコンディションになると思われるが・・・。16時間運転し続けてきたのだけれど、目の前にイワナの顔がチラついてしまうので、のんびり休むわけにもいかない。早速、フライロッド(釣り竿)を手に取り、Ya氏と共にバンガロー前の流れに毛ばりを投入したのだった。

今日から二泊ほどこのバンガローにお世話になるわけだ。中央やや右の大岩が我々にとっての料理台かつダイニングテーブルとなる大事な存在だ。

この閉伊川水系はアメマス(基本は北海道に生息)の南限であり、ニッコウイワナ(朱点と白点よりなるイワナ)と混血の個体も混じるので何とも言えないが、これは白点イワナなのでアメマス系かなぁー!

流れが二手に分かれる所の、穏やかな方を丁寧に毛ばりで探ったところ、23㎝のアメマス系イワナ君が登場となったのだった。今シーズン東北初イワナだ。

写真、右手の流れは本流筋で、白泡ガンガンで、まだ、ドライフライで狙うには水が多すぎる感じ。それに対して、左側の流れは毛ばり釣りに理想的水量である。

釣り終わり、ひと山越えて横沢温泉にやって来ましたぞ。宮古周辺では唯一の温泉で、無色透明の単純冷鉱泉で、腰痛、関節痛、皮膚病に効果があるらしい。
温泉からバンガローに戻って来たとき、”とちぎ”ナンバーの車が林道に止まっていて、丁度その持ち主が着替えていたので(上半身裸の状態で申し訳なかったが!)、恐らく釣り人だろうと判断して声をかけてみた。彼は、最初、遠野の猿ケ石川に行ってみたけど、車がアブの集団に囲まれたので恐れをなして、こちらの薬師川にやって来たとのこと。こちらはアブは少なくて、水量は多めだったけど、ルアーフィッシングなので丁度良い感じで、バンガロー上から堰堤までを相当に楽しめたらしい。特に堰堤淵ではかなりの大物をバラシて、それが悔しくて悔しくて仕方がないようだった。確か、ニ年前に防人がこの堰堤淵でやった時も大物が掛かり、急激に竿が絞り込まれ、あっという間に糸がプッツンした記憶があったので、彼の悔しさはとても良くわかるのだった。彼はこの一週間くらいを車中泊しながら周辺の川を釣り歩くらしい。
「お互いの釣りに幸あらんことを!」
とこれからの健闘をたたえ合って別れたのだった。
《補足1》この時期の薬師川の夜は寒い。特に、今年は昼間の宮古も涼しく、夜は冬対応の寝袋でも寒いぐらいだ。防寒対策はしっかりと!Ya氏の焚火がとても暖かく有難く感じたのだった。それと、この薬師谷のバンガローに来ると、夕方から夜にかけて、蚊でもなく、アブでもなく、何だか得体の知れない虫の攻撃を受け、ニ三日後から急激にカユカユモードになるのだが、一回忌の時も、もちろん今回も、相当激しい痒みに悩まされることになった。一体、何の虫に食われているのだろう。因みに、Ya氏は全く食われていないのだが、これは、やはり若い防人が美味しいからで、おじいさんのYa氏は枯れ始めていて興味ないという事なのだろうか?
《補足2》前回二年前に来たときは、タイマグラキャンプ場も多くの人がキャンプに来ていて、バンガローもほぼ満員だった。川にはにわか釣り師が至る所にいて、イワナの出方もシビアで、『オヤジの薬師谷も大衆化してしまったか』とYa氏と肩を落としたのだった。しかし、今回来てみたら、キャンパーは誰もおらず(次の日に2人のキャンパーが登場したが…)、バンガローに至っては二日とも我々以外は誰もいない状況だった。早池峰山荘の人によると「キャンプブームもひと段落して、週末とか、お盆の時くらいしか人は来ないです。平日はほとんど人は来ないですねぇー」とのことらしい。あのキャンプブームの時はどこのキャンプ場も密密状態で、『こんな状態でキャンプして何が楽しいのかねぇー??』と思って眺めていたのだけど、案の定、大半の人はキャンプに飽きてしまい、現在は昔からキャンプを嗜んでいた人、キャンプブームでホントに虜になった人だけが残り、落ち着いた状態になったという事なのだろう。


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