1040年ごろにペルシア(現在のイラン)に生まれたオマル・ハイヤームという人がいる。彼は以下のように数字の並んだ三角形(下の図)を発見した。

この三角形は、横に隣り合う二つの数字を足すとそれらの間の下の段の数を表す。具体的には
1段目と2段目:\(\displaystyle 1+1=2 \)
2段目と3段目:\(\displaystyle 1+2=3 \)
3段目と4段目:\(\displaystyle 1+3=4、3+3=6 \)
などなど。実はこの段ごとの数の並びは二項展開の時に現れる係数(二項係数)に対応しているのである。具体的には、
1段目:\(\displaystyle (a+b)^1=1\cdot a+1\cdot b \)
2段目:\(\displaystyle (a+b)^2=1\cdot a^2+2\cdot ab+1\cdot b^2 \)
3段目:\(\displaystyle (a+b)^3=1\cdot a^3+3\cdot a^2 b+3\cdot ab^2+1\cdot b^3 \)
などなど。一般の\(n\)乗の時、
\(\displaystyle (a+b)^n= \sum_{k=0}^{n}{ n \choose k } a^{n-k}b^k \)
と書いたとき、この\(\displaystyle { n \choose k } \)(または\(\displaystyle {{}_n C_k } \)とも書いたね)を二項係数と言い、
\[ { n \choose k }=\frac{n!}{(n-k)! k!}\]
と定義されているものである。ここで\(0!=1\)と約束するので、このもとで\(n=3\)(オマル・ハイヤームの三角形の三段目)の時を考えると、
\(\displaystyle {3 \choose 0}=\frac{3!}{(3-0)!0!}=1\)
\(\displaystyle {3 \choose 1}=\frac{3!}{(3-1)!1!}=3=\frac{3!}{(3-2)!2!}={3 \choose 2} \)
\(\displaystyle {3 \choose 3}=\frac{3!}{(3-3)!3!}=1 \)
となり係数の値はちゃんと一致しているわけだ。
さて、最近防人は息子のトクチンの数学教師として、日々忙しく世界(高校数学の世界)を飛び回っている。そんな最中、以下のような問題が数研出版の『青チャート』という有名な参考書に載っていた。
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k(k+1) \)を階差数列の視点から求めよ。
ウーム、階差という指示がなければ、Σ内の\( k \)を分配して、高校生にとっての有名公式
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k=\frac{1}{2}n(n+1) \)
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k^2=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \)
を用いることで解決しようというのが自然な流れなのでは!しかし、ここは階差に持ち込まなくてはいけない。そのためには以下のように
\[k(k+1)=k(k+1)\left \{(k+2)-(k-1)\right \}\frac{1}{3}\]
と変形するとうまいことに階差となる。このもとでΣすると、中が抜け落ちて最初と最後が残ってくるわけだ。具体的には、
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k(k+1)=\frac{1}{3} \sum_{k=1}^{n} \left \{k(k+1)(k+2)-(k-1)k(k+1)\right \}\)
\(\displaystyle =\frac{1}{3}n(n+1)(n+2)-\frac{1}{3}(1-1)1(1+1)\)
\(\displaystyle =\frac{1}{3}n(n+1)(n+2) \)
てな感じで、きれいにまとまって求めることが出来る。このやり方を拡張して、
\(\displaystyle 1=\frac{1}{1}\left\{k-(k-1)\right \}\)
\(\displaystyle k=\frac{1}{2}k \left\{(k+1)-(k-1) \right \}\)
\(\displaystyle k(k+1)=\frac{1}{3}k(k+1) \left\{(k+2)-(k-1) \right \}\)
\(\displaystyle k(k+1)(k+2)=\frac{1}{4}k(k+1)(k+2) \left\{(k+3)-(k-1) \right \}\)
\(\displaystyle k(k+1)(k+2)(k+3)=\frac{1}{5}k(k+1)(k+2)(k+3) \left\{(k+4)-(k-1) \right \}\)
\(\displaystyle \vdots \)
と階差を作り出してやると、以下のシグマ達は、
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n} 1=\frac{1}{1}n=n \)
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k=\frac{1}{2}n(n+1) \)
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k(k+1)=\frac{1}{3}n(n+1)(n+2) \)
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k(k+1)(k+2)=\frac{1}{4}n(n+1)(n+2)(n+3) \)
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k(k+1)(k+2)(k+3)=\frac{1}{5}n(n+1)(n+2)(n+3)(n+4) \)
\(\displaystyle \vdots \)
とサクッと求めることが出来てしまう。これに対して、\(k^2\)、\(k^3\)、\(k^4\)、\(k^5\)、…などのΣ、つまりべき乗和公式は依然やったようにそう易々と求めることは出来なかった。そこで、今回の階差の話をうまく使って求められないかと考えて、例えば\(k^2\)を眺めていると、
\[k^2=k(k+1)-k\]
と変形できることに気が付く。そこでこの式をΣすると
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n}k^2=\sum_{k=1}^{n}\left\{k(k+1)-k\right\}=\sum_{k=1}^{n}k(k+1)-\sum_{k=1}^{n}k\)
\(\displaystyle =\frac{1}{3}n(n+1)(n+2)-\frac{1}{2}n(n+1)\)
\(\displaystyle =\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \)
と簡単にできてしまうのだ。それでは\(k^3\)はどうだろうか?\(k\)についての三次の項が登場しなくてはならないので、\(k(k+1)(k+2)\)、\(k(k+1)\)、\(k\)を用いて\(k^3\)を表すことになるのだろうが、これはかなりパズルチックである。このような場合は、
\(\displaystyle k^3=k(k+1)(k+2)+ak(k+1)+bk \)
と置いて、この式が任意の\(k\)で成立するように定数\(a、b\)を決定すればよい。
\(k=-1\)とすると、上式は\(-1=b(-1)\)より\(b=1\)
\(k=1\)とすると、上式は\(1=6+2a+b=6+2a+1\)より\(a=-3\)
よって、
\[k^3=1\cdot k(k+1)(k+2)+(-3)\cdot k(k+1)+1\cdot k\]
を得るので、この関係式より三乗のべき乗和公式は
\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n}k^3= \sum_{k=1}^{n}k(k+1)(k+2) -3\sum_{k=1}^{n}k(k+1)+\sum_{k=1}^{n}k\)
\(\displaystyle =\frac{1}{4}n(n+1)(n+2)(n+3)-n(n+1)(n+2)+\frac{1}{2}n(n+1)\)
\(\displaystyle =\frac{1}{4}n^2 (n+1)^2 \)
と簡単に求めることが出来る。このようにべき乗和公式を得るという観点から、べき乗を上昇階乗で表現することの重要性が見えてくる。べき乗を上昇階乗で表現した結果をまとめてみると、
\(\displaystyle k^2=1\cdot k(k+1)+(-1)\cdot k\)
\(\displaystyle k^3=1\cdot k(k+1)(k+2)+(-3)\cdot k(k+1)+1\cdot k \)
\(\displaystyle k^4=1\cdot k(k+1)(k+2)(k+3)+(-6)\cdot k(k+1)(k+2) \)
\(\displaystyle +7\cdot k(k+1)+(-1)\cdot k \)
\(\displaystyle k^5=1\cdot k(k+1)(k+2)(k+3)(k+4)+(-10)\cdot k(k+1)(k+2)(k+3) \)
\(\displaystyle +25\cdot k(k+1)(k+2)+(-15)\cdot k(k+1)+1\cdot k \)
\(\displaystyle \vdots \)
となる。ここに登場した各係数からマイナス符号を省いたものをオマル・ハイヤームの三角形のごとく並べてみると、以下のスターリングの三角形を得る。

この三角形は以下のように読む。
例えば三段目のスターリング数”6”を得るには、二段目の左のオレンジの”1”を3倍して、そこに青色の”3”をそのまま足す。また、五段目の”65”を得るには、四段目の赤の”10”を4倍して、そこにオレンジの”25”を足す、…、と言った感じで読み込んで行けばよい。
ここで、スターリング数(第二種)を\(\displaystyle \left\{ \begin{array}{l} n \\ k \end{array} \right \} \)という記号で書いて、
\(\displaystyle k^n =(-1)^{n-n}\left\{ \begin{array}{l} n \\ n \end{array} \right \}k(k+1)\cdots(k+n-1)+\cdots \)
\(\displaystyle +(-1)^{n-2}\left\{ \begin{array}{l} n \\ 2 \end{array} \right \}k(k+1)+(-1)^{n-1}\left\{ \begin{array}{l} n \\ 1 \end{array} \right \}k \)
で定義する。更には、\(k<1、n<k \)では\(\displaystyle \left\{ \begin{array}{l} n \\ k \end{array} \right \}=0 \)とする。具体的に\(n=3\)の時、スターリング三角形の左から
\(\displaystyle \left\{ \begin{array}{l} 3 \\ 3 \end{array} \right \}=1 \)
\(\displaystyle \left\{ \begin{array}{l} 3 \\ 2 \end{array} \right \}=3 \)
\(\displaystyle \left\{ \begin{array}{l} 3 \\ 1 \end{array} \right \}=1 \)
てな感じだ。上記のスターリング数の三角形に着目してみると、
\[\left\{ \begin{array}{c} n+1 \\ k \end{array} \right \}=\left\{ \begin{array}{l} n \\ k \end{array} \right \}k+\left\{ \begin{array}{c} n \\ k-1 \end{array} \right \} \]
という漸化式に従っていることがわかる。
今回はべき乗をスターリング数を用いて上昇階乗で展開して、べき乗和を求めたのであった。べき乗和公式は依然やったようにベルヌーイ数で書けるのであるから、当然スターリング数とベルヌーイ数も関係してくることになる。昔、べき乗を上昇階乗(または降下階乗)で表すことを読んだ時、「よくもまあ、数学者はこのような遊びを思いつくものだなあー」と感心した(半ば呆れた)が、今回の、べき乗和を求めるために重要な変形であったと認識すると、『べき乗を上昇階乗で表すことの重要性』が自然なものとして捉えられるようになったのだ。トクチンの数学指導で青チャートを開いたことで、ベルヌーイ数の周辺の思わぬ景色に巡り合って、とてもワクワクしている防人である。釣りで忙しいのだが、今後、ベルヌーイ数とスターリング数の関係式についても調べてみようと思い始めた今日この頃である。


コメント