実は、防人にとって高級輸入車ディーラーを訪れたのは、ランドローバー京都が初めてではなかった。京都で試乗する2カ月ほど前、名古屋のランドローバーを訪れていたのだった。
2022年の新春、奥さんはPCプログラムについての資格を取り、新たな仕事に乗り出すことに期待と不安が交差しながらも、収入が増えることに対する緩やかな希望が防人家を取り巻いていた。娘は高2から受験学年である高3になるのだが、まだ、受験による塾代の出費、更には、名古屋以外の大学に通うようになった時の、未来の学費、生活費などの出費を気にするにはまだ先の話であり、時間という壁が立ちはだかってくれて、家計についての危機感はほとんどない状況にあった。一方、防人にはこのままのんびりしていると、欧州のEVシフトが進み、内燃機関のディフェンダーを買うことは不可能になるかもしれないという何とも言えない焦りが芽生えだしていた(オール電化のディフェンダーなんてディフェンダーではないような気がして興味の対象にはならないように思えたのだ)。家の中ではディフェンダーの話題を出しても気まずい雰囲気にはならなくなっていたし、名古屋のランドローバーディーラーについての話(「どこにあるか」という程度の軽い話であったが)もしていたのであった。何となく、この時期を逃したら永久にディフェンダー買えないかもと言う思いが日に日に強まっていた時期であった。

ここに登場する写真はすべてランドローバー京都であり、本記事の内容とは関係ないです。

これは75周年記念モデルのディフェンダー90だね。アッ!長いぞ!!これはワンテンでした。
ネットとかで調べると、高級輸入車ディーラーは敷居が高いところで、ラフな格好(防人のように半袖短パン)で行ったりすると全く相手にされないとか、軽自動車で行ったら全く相手にされず、出直して父親のBMWで行ったら丁寧な対応してもらっただとか、腕時計は高級時計をしていかないと馬鹿にされるだとか、…ネットを調べているとこんな話(冷静に考えればバカバカしい話だが)ばかりが目に付いて、防人としては中々輸入車ディーラーに足を踏み入れてみようという勇気が湧かずにいて、モジモジしていた時期でもある。
2022年の二月下旬あたりだっただろうか。午前中床屋さんで髪を切ってもらい、その後職場に向けて自転車を名古屋の町中でえっちらおっちらこいでいた所、斜め前にランドローバーのディーラーが見えてきた。まあ、その場所にディーラーがあることを知っていて、わざとその前を通るようなルートを選んでいたのだけど、何となく偶然前を通ったような雰囲気を装いたいような気分であったのだ。そして、そのディーラーの前まで来ると、ディフェンダーが何台か展示されていて、その中の白色(フジホワイト)のディフェンダーに目が釘付けになった。いや、これも事実は、何度かこのディーラーの前を車で通っていて、フジホワイトのディフェンダーがあることは認識していたが、今まで、新型ディフェンダーをじっくり見たことが無かったので、しっかりと見てみたいという願望が、自転車でその前をゆっくり通らせるという芝居に打って出るきっかけを作らせただけだった。こぐスピードを緩め、目の前に来る頃にはスピードゼロとなり、足をついて、しまいには自転車から降りて、更にはガラスに近づいて、しげしげとフジホワイトのディフェンダーをのぞき込んだのだ。この時の僕の恰好は、高級腕時計もしていないし(そもそも持っていない)、服装は2月なのにTシャツ、そしてリュック姿、更に、乗物もBMWでもなんでもなく自転車(名古屋では”ケッタ”という)である。顔をくっつけてのぞき込んでいると、中にいた営業さんだろうか、何かこっちに向かって合図しているように見えた。よく見ると、こちらに向かって手招きしている。僕が、自分を指さして「僕の事か?」というようなジェスチャーをすると、中の営業さんは「そうだ」といニュアンスの反応を示してきた。自転車を脇に置いて、入り口に立つとドアが開いて、その入口の所にはおしゃれな雰囲気の営業さんと女性がいたので、一瞬たじろいでしまい入っていいものかと躊躇したが、例の営業氏が手招きし続けているものだから、ドキドキしながらも入り口を通り抜け、その営業氏の所まで歩み寄ったのだった。

ラグビーワールドカップ記念モデルだったかな。マッドブラックでカッコいい!

中空回廊が周囲を巡り、独特な作りのランドローバー京都のショールーム。
「ディフェンダーですか。どうぞ、ゆっくり見ていってくださいよ」
と気さくに話しかけてくれた営業氏は、歳の頃は防人と同じくらい、町のおじちゃん的雰囲気で(という防人も町のオジサンだが)、僕がイメージしていた高級輸入車ディーラーの営業さんとは程遠いものだった。当時、僕の輸入車ディーラーの営業さんのイメージはランドローバー青山の高桑さんという方であった。彼の動画を何度か見て(今回も見直してみたが、相変わらずワクワクドキドキして当時のことが思い出されて、とても良い動画だなあと思う)、ワクワクしていたし、都会的でエレガントで少し近づき難い雰囲気も併せ持つハイセンスな人々が輸入車ディーラーの営業さん達だとステレオタイプ的に思い込んでいたのだ。
「このディフェンダーはロングタイプですよね?」
「そう、ワンテン(110)のディーゼルです」
この時、僕は衝撃を受けた。実は恥ずかしい話だが、この時までディフェンダー110の”110”を”ひゃくじゅう”とか、”ワンハンドレッドテン”とか、”ワンワンゼロ”とか、まさか”ひゃくとうばん”とか、…読み方がわからず困っていたのだ。そして、この日、初めて”110”を”ワンテン”と読むことを知るに至ったのだ。因みに、ディフェンダー90の”90”は”ナインティ―”と呼ぶのだろうということは推測できていたし、ランドローバー青山の高桑さんの動画でもそのように言っていた記憶があるので大丈夫だったのだが。
「本当は90(ナインティ―)に興味があるんですが、現在はパジェロのロングに乗っているので、このワンテン(初めて使う言い方なので、何だかギクシャクして小声でもぞもぞ言ってしまったと思う)の方が良いかなあ!それにディーゼルにすれば経済的ですよね。それに僕はディーゼルの排気ガスのにおいが好きなんだよなぁー」
という僕に、営業氏は
「ディーゼルだとトルクが650Nmもあるんだけど、こんなトルクを生かした走りができる人なんていません。宝の持ち腐れになるだけ!ガソリンエンジンでも400Nmもあるんで、それで十分です。それに、90に興味があるなら、そっちにすべきですよ」
「はぁー!、まあ、どちらにせよ、このディフェンダーは長く乗りたいですよね。ただ、もう少しお金をためて、キャッシュで買えるようにした方がいいかなあ!ローンは抵抗あるしなあー」
という僕に対して、営業氏はため息をついて
「この前来たお客さんが、”値上がりしちゃったから、また元の価格に戻ったら買いに来るわ(例えば、90の場合は定価520万円から550万円くらいに値上がりしたらしい)”て言っていたけど、価格が元に戻ることなんてありえません。高くなることはあっても、安くなることは無いんですよ。だから、このお客さんは”買わないよ”と言っていることと同じなんです。新聞観ました?ロシアがウクライナに侵攻したでしょう。この先、どんどん値段上がっていきますよ。お金溜まってから買おうと思っていたら、貯蓄が現在の価格に到達した時には、ディフェンダーの価格はさらに高くなってしまって一生買えませんよ。だから、車は3年くらいの残価設定のローンにして買えばいいんですよ。3年経ったら、その時点でまた別の車に乗り継いでいけばいいんです。車のお金を貯める暇があったら、そのお金は住宅ローンの返済に投入したほうがはるかに賢いお金の使い方になりますよ。まあね、名古屋人は見栄っ張りだから、札束を見せびらかしながら、車を購入したいと思う人も多いんですけどね…、あまり賢いやり方とは思いませんねェー」
「残価設定ローンですか。確かに住宅ローン払っているけど、今まで車はローンで買ったことないし、ここで車をローンで買うのはどうなんだローン。それに、僕はディフェンダー買うのだったら、長ーく乗り続けたいんですけどねぇ・・・アッ、それと僕は名古屋人ではなくて、甲州出身の山猿です」と上目づかいに営業氏を見ると、
「お客さんねぇー!3年のメーカー保証が切れたらどうなるかわかっていますか。例えば、オイル交換だって一回当たり3万6千円かかるんですよ。それ以外の修理だってどうなるかわからない。私は、今までに17台の外車を乗り継いできました。子供もいます。このような状況で、外車に乗るのに最良のやり方は、メーカー保証の3年、または、ディーラー延長保証のある5年までを限度として、残価設定ローンを組んで、それを過ぎたら、また新しい車に乗り換えていく。そうすれば、修理費や車検代も節約できるし、色々な車を経験できるんです。私の言う通りにすれば、あなたもまだまだ2~3台、うまくやれば5~6台の輸入車に乗れますよ」
「ハァー!」
「値段は高くなるし、内容はダウングレードされて行くし、見てください、ここを」
営業氏はフジホワイトディフェンダーのドアを開け、ある場所を指し示しながら、
「前はここはこうだったのですが、現在はこんな安っぽいものに変更されてしまいました。ウカウカしていると、どんどん安っぽくなっていくか、はるかに値段が上がってしまうかのどっちかでしょうね。因みに、私は去年の9月に90をオーダーして、あと一カ月後くらいに納車です(なんだか嬉しそうな表情で!)。その時に比べると、色々なものがダウングレードされています。あなたもお金貯めてからなんて言っていたら、どんどん損してしまいますよ」
「家に帰って奥さんを説得してみようかなあー」
「そうですよ、奥さんを攻略しなくては何も始まりません。そこを怠ると、商談の席で夫婦げんかが始まったり、私が悪人にされたり大変なんですから、本当に!勘弁してくださいよッ‼ていう感じです。この近くにアピタとかイオンがあるじゃあないですか。そこに買いものに来たついでに、ちょっとショールームに立ち寄って夫婦で見て行ってください。私もそのような時は、営業せずに見守るだけにしますから。予約なんていいから、何度か立ち寄り一歩一歩進めて行けばいいんですよ。そんな感じで始まったお客さんで、今ではご夫婦で僕から車を買っていただくようになっただけではなく、息子さん娘さんの代まで車のお世話させてもらっています。更には車の保険だけでなく、生命保険なんかも、色々提案させてもらっているんですよーぉ!」との話に、防人も付け焼刃の保険についてつぎはぎ知識を披露すると、その営業氏はわずかな笑みを浮かべ、
「あなたも、まだまだ僕が色々と指導しないと駄目そうですね。まあ、兎に角、奥さん連れてここに来てください。そうしていくうちに、総合的な考え方を徐々にお教えしていきますので…」
「はあー、その時はまたよろしくお願いします」
人と言うのは自分の価値観を逸脱する話、知らない世界の話を矢継ぎ早にされると心を閉ざし、途中で落ちこぼれていき、その人から距離を置こうと身構えてしまう傾向があるのではないか。この時の僕も「この営業氏の通りにやるのは不安だなあ。このままだと、すべて彼のペースに飲み込まれてしまうぞ」と警戒感を持ったのだった。その後の展開は『ディフェンダー購入日記NO11』に書いた通りだ。
2024年11月現在、この営業氏が言っていたことをこのように思い出してみると、彼のすごさが浮き彫りになるのではないか。上記の会話はほぼ3年前の内容である。僕には初めての高級輸入車ディーラーで、初めての車の買い方に対する価値観を投げ掛けられて、ドギマギしたが、初めて尽くしの事だったので今でも彼との会話は鮮明に覚えていて、それをなるべく忠実に(脚色したところもあるが…)再現したのである。氏の言う通りサングラスホルダーがなくなり、給油口のロック機能がなくなり、…とダウングレードの嵐の果てに、今度はダウングレードしない代わりに、車種としてのスタンダードグレードの設定がなくなり、2024年現在でディフェンダー90はX-dynamic(ディーゼルだけど、お値段は1000万円くらい)、V8(1500万円くらい) となってしまった。もし、2~3年お金をためてからディフェンダー90を買おうと思っていたら、この営業氏の言う通り、はるかに上回る値上がりのため、一生ディフェンダーを買うことはなかっただろうなあとつくづく思うのである。しかも、現在、防人は5年の残価設定ローンでさきもりちゃんに乗っているのである。M田さんと話したりしていくうちに、この営業氏の言っていることの正しさ、将来を鋭く予言する能力の高さに、今はただただ感動しているのである。彼と話したことで、あまりのんびり構えていてはだめだと思ったわけで、だから、その後、中さんに連絡してランドローバー京都で試乗に踏み切った訳なのだ。この営業氏との出会いがなければ、僕はディフェンダーライフを満喫できていなかっただろう。ただ残価設定ローンだが、400万円の自己資金(本当は600万円の自己資金があったが、すべて使ってしまうより200万円は何かのために残しておいた方が良いし、ローンにした方がM田さんのインセンティブ関係でも良いわけだろうしと判断したためだ。結局、サイドマウントギヤキャリアーやルーフキャリアー、エンブレムホワイト化などに投入されているのだが)、パジェロの売却費用160万円で90の車両価格560万円を払い、オプションとか保険などの諸経費200万円分をローンにしただけだ。5年後の残価は33万円の最低ラインにして、その時には33万円を払ってしまうつもりだ。このように5年後に乗り換えるのではなく、買い取ることにしており、その後も長く乗ろうと思っているという点では、営業氏のお告げに反しているのかもしれない。5年以上後に、車検や修理代でピヨピヨとなり、再びこの営業氏の言葉、
「外車に乗るのに最良のやり方は、メーカー保証の3年、または、ディーラー延長保証のある5年までを限度として、残価設定ローンを組んで、それを過ぎたら、また新しい車に乗り換えていく。そうすれば、修理費や車検代も節約できるし、色々な車を経験できるんです。私の言う通りにすれば、あなたもまだまだ2~3台、うまくやれば5~6台の輸入車に乗れますよ」
を痛感している防人がいるのかもしれないのだ。営業氏の経験値、車界の未来を読む鋭さからすると、軍配が上がるのは彼かもしれない。しかし、現時点で僕は自分が正しいと思ってさきもりちゃんとの生活を楽しんでいるのだが・・・。
コメント
こんばんは
この名古屋の営業マンは営業目線での車購入の話ですね。一理あると思いますが。
人はこれに車に思い出と愛着が入るのでこの方程式が成り立ちません。溺愛した子には修理費を払います。ただの車ではなく家族の一員なのです。
いかがでしょうか?
この営業マン氏の説得力があるところは、自分自身が実践し17台の輸入車に乗り継いできたことなのです。まあ、色々な輸入車に乗りたい人には合っているのかもしれません。ただ、てんぷらさんの言う通り、ひとつの車に愛着を感じ、末永く乗りたい人々には彼の方程式は適用できないですね。”さきもりちゃん”とか呼ぶようになってしまうと、もはや家族の一員になってしまうので、エンストしたから取り替えて!なんていう感覚も考えにくいですよね(現実問題としても無理ですが)。