Defenderピヨピヨ日記(NO46 日々のささやかな楽しみ)

Defender購入後日記

 四年前の姉の死去から山梨の実家の過酷を極める片付けが始まった。当初、オヤジ(今年の元旦に死去)は僕に姉名義の貯金通帳を見せて

「これらの通帳の合計額を計算してごらん」

とのたまった。合計すると一千五百~六百万ほどあった。オヤジはこれはみなオニィ(防人のこと)の物だという。今まで、一千万円以上のお金の集まりを見たことが無かったので、その日から(丁度四年前)頭の中でお金がチャリンチャリンと音を立てるようになったのである。因みに、姉は病気で生涯働くことはなかったので、これらのお金はオヤジやオフクロの退職金、高額の年金、オフクロのお兄さんからの相続金などを色々な口座に分けておいてあったものと思われる。そして、姉の葬式が終わり山梨からの帰り際、甲府のワイン専門店”ワインズ新富屋”に立ち寄って、今までの人生で買ったこともない高級ワイン(と言っても防人の場合、購入するのは1000円以下のワインばかりで、本当に時たま2000円前後のワインを買っているレベルでの話)である『Chateau Lagrange(シャトー ラグランジュ)』1万円を何の気兼ねもなく購入してしまったのである。『何て言ったって、僕ちゃんは1千6百万円ものお金を口座に持っているもんねェー(ただ、この時点ではこのお金はオヤジの講座に相続されるものなのであるが)』という安心感、優越感が防人を大胆な行動に走らせたのであった。

 姉が死去するまでは、家、スタバ―やコメダでラグランジュ力学を中心として、数学の勉強をかなり真剣にやっていた。そして、僕の敬愛する数学者ラグランジュと同じ名前をほどこされたこの"Chateau Lagrange"というワインに興味を持っていたのである。だから、お金持ちになったと錯覚した防人は、真っ先にこのワインを買うことを思いついたのである。実家の帰りにワイショップにウキウキ気分で立ち寄って、上擦った声で、「シャトー ラグランジュを見せてください」と言い放ったのだ。
"ワインズ新富屋"のマスターに言わすと、この瓶のラグランジュは10年後くらいに味が安定化するらしい。そう、2020年に買ったので、2030年頃に飲むのが良いらしい。当時、ラグランジュ力学の勉強に夢中になっていたので、『この10年間計算頑張って、論文が書けたらお祝いにこのワインを飲もう』と思ったのだ。しかし、現実は、このワインを買った辺りから2024年までのこの4年間、お金の計算ばかりになって、ラグランジュ力学の計算はほったらかしのままだった。論文書くなら後6年しかないぞ!ヤバいぞ防人‼

 その後、姉からオヤジへの相続手続きを手伝うようになって、各銀行を巡っていくと、口座の残高額は架空の数字であったことを思い知らされる。1600万円と思っていた残高はたった200万円。姉の死後も送り続けられてくる通販などの膨大な請求書の束にお金を振り込んでいくと、最終的にはマイナス百万円にまで落ち込むことになった。

 また、ある時は、実家に行くとオヤジ殿が目を輝かせて、

「オニィ―、高級ブランディ―の瓶が沢山出てきたぞ。これをお酒買取店に持って行けば、50万円くらいになるぞきっと!」

と言われ、再び、頭の中でチャリンチャリンと音が鳴り始め、意気揚々とそれらの瓶をもって名古屋大須のお酒買取店に顔を出し査定してもらうと、

「合計で4千五百円です。後、残りの瓶は引き取れません。持って帰ってください」

と言われる始末だった。

 姉が数千万円費やして購入し重ね置きされていた、300百着以上の大島紬はほとんど売れず、家を埋め尽くしていた通販による衣類、靴、ウィッグ、レコード、…などの売却全合計額は50万円。その後に行なった姉の家のリフォームが100万円くらいだったので簡単に相殺され、更には再びマイナスに落ち込んでしまった。

 元旦にオヤジが他界して以降、オヤジの自慢であった広重の”木曽路之山川・雪月花之内 雪” は千五百円。更に、大量に収集してあったオヤジ自慢の中国の青銅器群はつい先日の神田の骨董市において、瞬殺でレプリカと判断され、一点物としての競りは行われず、ひとまとめいくら的な括りになってしまい、合計20万円(ここから運搬費、レンタカー代、人件費、保証料、紹介手数料が差っ引かれてその残りが防人の口座に振り込まれるのだ)。この4年間、過酷な実家の整理の傍らでの現金化の試みのほとんどすべてはこんな感じだった。まあ、そう言えば数少ない例外もあったか。オヤジの愛弟子のYa氏が中国楽器の”笙(しょう)”をネットで売ってくれたのが30万円、数百枚あった浮世絵の中の”芳年”の作品が12点で70万円であり、これはこの4年間の中の最大のヒットであった。

 この四年間、防人は非常に頻繁にある妄想に取りつかれてきた。それは『オヤジの中国骨董のどれかが大化けして、一億とか二億の大金が舞い込み、防人が億り人になる』というものだ。そんなことになったら、職場なんかでも他の労働者諸君を眺め下し「今日も労働ご苦労ッ」的な雰囲気を醸し出すだろう。ランドローバー京都に行ったときなんかは、「M田君、今度ディフェンダーオクタよろしく頼むよ」なんていう台詞を上から目線で投げ掛ける。足を高く跳ね上げて足組をし「コーヒーはまだかッ!」なんて叫んだりする。そして、「今日の夜はどちらへお泊りで?」とのM田君の問いかけに「うん、まぁあー、いつものリッツカールトン京都にね。点検終了したらオクタをリッツに持ってきてくれたまえよ」なんていう会話が繰り広げられて…こんなレベルの妄想が頭を駆け巡り、その度に頭の中でチャリンチャリンと音が鳴るのだった。

 結局、この前の骨董の運び出しと神田での競りが終わり、防人の妄想は妄想のまま終焉を迎えることになった。最近は4年前のようにラグランジュ力学の計算も始めるようになった。身の丈に合った暮らしに戻りつつある。いやいや戻るも何も、そもそもお金が舞い込んできたわけでなく、苦しいやりくりをしてきたわけで、億り人的妄想が頭を占める割合が減ってきて、通常の思考に戻りつつあるという意味である。言い換えれば、頭の中でお金がチャリンチャリンと音を立てることが無くなってきたということだ。ただ、四年前と違うのは、防人にとっての高級車であるさきもりちゃん(ディフェンダー90)が我がカーライフを支えてくれているということだ。しかし、今後維持費が防人を圧迫することになるかもしれないということが気がかりだが、今はあまり未来のことは考えないことにしよう。また、ラグランジュ力学の計算内容もブログで公表することにしているので(と言ってもほとんど誰も読んでいないようだけどね)、以前より集中して計算するようになった。

 そんな感じで、通常の妄想モードに戻りつつある防人が、最近ハマっているのは通勤途中に缶コーヒーを飲むことだ。それも、ダイドーの自販機にある”M”かまたは”Original”というヤツで、それも、販売機をうまく探すと110円(通常は140円)で購入することが出来る奴だ。これを買って、冷たいうちに矢田川に行ってのんびり腰掛けて、景色を眺めたり、計算のことを考えたり、最近ならさきもりちゃんのバンパーのフジホワイト化の妄想したり、…億り人的妄想以外の色々な妄想を楽しみながら飲むのが、このひと時がたまらないのである。

 ダイドーの自販機は色々あるが、ここの自販機は100円~110円で缶コーヒーが買えてしまうお得な自販機なのだ。
 "M"は下段右から3番目と四番目に鎮座している。"Orginal"は下段一番左だ。気分で飲み分けるのだ。
 今日は"M"を選んだ。これはミルクたっぷりの甘いコーヒージュースそのものだ。もちろん、この後は職場に向けてサイクリングでカロリー消費を促すわけだが。
 真夏でも日差しを遮るものがないこの場所で缶コーヒーを飲んでいた。階段下には木がるので、おにぎりなどを食べる時は、その木の下だ。毎日、ここでの5~10分の時間が至福の時なのである。

 今日も矢田川の河川敷で缶コーヒー飲んだし、一日の労働を頑張るかなあー!行ってきまーす。

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