[レンジローバーはさぁー、英国では王室の公式行事に使われている車でね、エリザベス女王自らハンドルを握っているわけさぁー。晩餐会の時に唯一乗りつけることが許されているSUVなわけよ」
「へぇー」
「そういえば、防人はディフェンダーが好きだったよな。買わないの?」
「雨漏りするような車、奥さんの理解が得られるかなあー!」
「今のディフェンダーは生産が終わって、今度新型が出るようだよ。それにすればいいじゃん」
「えッ!そうなの?」
レンジローバーを買うと決めた男(中さん)の調査能力は高い。それに比べて何となく「かっこいいなあ」程度に思っている僕は、ほとんど知らないことばかりである。そもそも、ランドローバーは車の名前なのか社名なのかという基礎レベルからわからない。そのあたりの基礎講座を中さんから受けている間、ふと娘に目をやると、中さんのお嫁ちゃんと楽しそうに、今食べている魚料理の話をしている。我々はデュセルドルフの中心街のレストランに夕食を食べに来ていて、アイスバイン(ローリエなどのスパイスと一緒に塩漬けした骨付きの豚すね肉に、ハーブを合わせてじっくりと煮込んだ料理)などのドイツ料理を食べているのだ。夏場のドイツで、店内でごはんを食べる人は誰もいない。みんな外の席で食べるのだ。夕飯時間と言っても周囲はまだ明るく、パラソルの間を差し込む夏の夕陽はまだ強い。そんな中、一台の黒色のディフェンダーが夕日に映し出されながら颯爽と我々のわきの道路を走り抜けていった。
「オッ!ディフェンダー110じゃん。防人、ドイツ土産に買って帰ったら」
我々は今日一日、中さん夫婦の案内でデュセルドルフ市内を回り、名古屋へのお土産などを買ったり、市内観光をしていたのである。そして、ドイツ旅行最後の日に英国産のディフェンダーを買って、何食わぬ顔で名古屋に戻る。そして、一か月後、家の前に巨大な包みが届く。それを開けた奥さんは…!ドイツの緯度はサハリンくらいと言っても、昼間は暑いし夕日に照らされている現在も暑いのだが、僕の背中には冷たい汗がしたたり落ちた。ブルルッ!
「防人、寒いのか?大丈夫か?」
「いや、ちょっと悪夢を!」
それにしても、今回のドイツ旅行は中さん夫婦のおかげでとても濃厚なものとなった。フランクフルトに到着した我々を迎えてくれて、中さんの運手するアウディで一路チュービンゲンへ。ヘルマン・ヘッセが学生時代を過ごした街だ。


次なる目的地はハイデルベルグ。白い巨塔のドラマで田宮二郎が演じる財前五郎が国際会議で訪れた場所がここで、財前教授が夕食を食べたレストランに我々も入った。


大学町が続いたので、お次はロマンチック街道で有名なローテンブルグ・オプ・デア・タウバー(タウバー川を見下ろす丘の上にあるローテンブルグという意味らしい)観光。



中さんの運転するアウディはアウトバーンを160~200㎞/hでひた走り、ローテンブルグからゲッチンゲンへ。このゲッチンゲン大学の数学科は一時期世界の中心であった。数学者ではガウス、クライン、ネーター、ヒルベルト、カラテオドリ、リーマン、フォン・ノイマン、…、物理学者でもハイゼンベルグ、フント、ラウエ、アインシュタインなどなど、ゲッチンゲンの卒業生、教鞭をとった数学者、物理学者は挙げだすときりがない。

そして、中さんが住むデュセルドルフへ。ここを拠点にケルンやベルギーへドライブした。ベルギーでワッフルを食べて、初めてワッフルというものがこんなにもおいしいものなのかと思った。それにでかい。また、昼に食べたムール貝を煮込んだ鍋もGut!



中さんはまだ2~3年ドイツにいるらしい。お嫁ちゃんもこのドイツ暮らしが気に入っているらしく、色々と抱負を語ってくれた。ということはだッ、君(中さん)がレンジローバーのオーナーになるのは少なくとも2,3年後ということだ。この間にどのような攻防があるのか、僕は勉強させてもらい、未来の参考にしようかなあ。



中さん夫婦のおかげで、非常に濃厚なドイツ10日間の旅ができました。ありがとうございました。
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