Cafe Lagrange (雨読編8:天体の運動と極座標)

Cafe Lagrange 雨読編

 日本では『安全』と『安心』を同一の文脈の中で『安全・安心』という使い方をすることが多々ありますが、僕はこの言い方が気になって仕方ありません。記憶の限りでは、昔はそのような言い方をしていなかったと思うのですが…。

 そもそも、『安全』と『安心』は全く異なるものです。『安全』は科学的に定義でき、客観的なものであるのに対し、『安心』は情緒的で、主観的なものだからです。

 例で説明します。ディアハンターという映画があります。1978~79年にかけてベトナム戦争を描いた二本の超大作映画が公開されました。一つは、フランシス・コッポラ監督の『地獄の黙示録』、もう一つが、マイケル・チミノ監督の『ディアハンター』です。この『ディアハンター』では、ベトナムの戦地に赴いたアメリカ軍の兵士たち(ロバート・デ・ニーロ演じるマイケル、クリストファー・ウォーケン演じるニック、ジョン・サベージ演じるスティーヴン)が捕虜になり、そこでロシアンルーレットを強要されます。ロシアンルーレットとは、6連装のリボルバー拳銃に一発だけ弾を入れて、ゲームに参加する者同士で自分の額に銃口を向けて引き金を引いていき、弾が出た人が敗者(死者)となる死のゲームなのです。捕虜となったマイケル、ニック、スティーヴンが生き延びるための手段は、皮肉にもこの死のゲーム、ロシアンルーレットを行うこと以外に道はなかったのでした。そして、かろうじてこの極限状態を生き抜いた三人の若者たちの未来は大きく異なるものとなり、そして最後の壮絶なロシアンルーレットの名シーンへと向かっていくのでした。

 ここで各回で弾が飛び出す確率を計算してみましょう。

 1回目…明らかに \(\displaystyle \frac{1}{6}\)

 2回目…\(\displaystyle \frac{5}{6}\)(一回目で弾が飛び出さなかった) \(\displaystyle \times \frac{1}{5}\) (残り5室に一発の実弾)\(\displaystyle =\frac{1}{6}\)

3回目も同じ。一回目、二回目で弾が出ず、3回目では4室に一発の実弾が入っているので、

 3回目…\(\displaystyle \frac{5}{6}\times \frac{4}{5}\times \frac{1}{4}=\frac{1}{6}\)

 同様に、4回目、5回目、6回目もみな同じ\(\displaystyle \frac{1}{6}\)の等確率であることがわかります。この死のゲームを2人とか6人とかでやるとして、4回目まで何事もなく過ぎ去ったとして、自分が5回目に引き金を引くことが決まった場合、この時の心理状態はもはや正気を保つことは難しい、発狂してしまうかもしれない、極限の状態に追い込まれるのではないでしょうか。ロシアンルーレットは明らかに安全なゲームではないのです。

 それでは、6連装の拳銃を1億連装の拳銃に変えて、弾を一発入れてロシアンルーレットをやるとしたらどうでしょう。それも、一回やれば20万円の賞金をあげますよという条件付きならあなたはやりますか?客観的に考えるなら、僕はやります。月当たり3回やって、60万円もらい、それで好きな事をやって生活していきます。ディフェンダーとか欲しくなったら、30回くらい連続でやるかもしれません。なぜなら、安全だからです。しかし、銃口を自分の額(こめかみ)にあてて、引き金を引くという行為は、ディアハンターなんかの映画を見た後では、恐ろしくもあり、手が震えてできないかもしれません。安心ではないからです。20人くらいに一億連装のロシアンルーレットやるかどうか聞いてみたのですが、みんなやりたくないとのことでした。この場合、安心感を得るためには、100億連装、いやもっと、弾丸が一発でも入っていると思うと、不安になるので、ゼロ弾丸のロシアンルーレットということになるかもしれません(ここ日本でもゼロコロナとか言っていましたっけ!)。

 ここで、他の確率、飛行機や車の死亡確率に目を向けてみましょう。これは何を分母に取るかで値が変わるので、悩ましく、調べれば調べるほど混乱してしまいました。ここは開き直って人口当たりで何人の死亡事故が年間起こっているのかと短絡的に考えてしまうことにします。すると、飛行機の死亡確率は100万分の1、車の死亡確率は1万分の1となります。また、年末ジャンボ宝くじ一等の当選確率が1億分の1なので先ほどの1億連装のロシアンルーレットと同じ確率です。我々は車を毎日使い、「今日のドライブでいよいよこの世ともお別れか」なんて考えないので、1万分の1の確率は十分安全と言ってよいのでしょう。であるなら、飛行機は安全極まりないのですが、僕は日航123便の御巣鷹山への墜落事故のニュースをリアルタイムで見ていた世代なので、いまだに不安な乗り物と思ってしまい、安心できないのです。同様に、1億連装のロシアンルーレットは飛行機より安全なのですが、多くの人々にとって安心できないのです。

 このように、安心感には個人差があり、情緒的であるため、科学的視点から程遠いものとなってしまいます。そのため、国家レベルの政策や対策には安全かどうかという観点は重要ですが、安心感まで考慮してしまうと、決まるものも決まらなくなってしまうでしょう。一方、病院は安全でなくてはいけませんが、更には、安心感がとても大事なところではないでしょうか。人間はコンピューターと違ってミスをしますので、安全性の観点からは問題もあるのですが、病気で不安な患者からすると、あの先生に診てもらうと安心できる、あの看護師さんとの毎日の会話が不安感を払しょくしてくれて安心して闘病生活を送れる、といったことは十分あると思います。今騒がれているAIは安全性を高める技術として期待できるかもしれませんが、安心感はそれとは別なところにあるのです。つまり、われわれ人間同士の関係性から生まれることが多いのです。であるなら、今後、我々は人間力を磨いていくことが、AIにはまねできない人間独自の価値を高める重要なファクターになっていくのではないでしょうか。今回も、長い雑談になってしまいました。本論に入ります。

 さて、今回は運動方程式を\(x-y\)デカルト表示から\(r-\theta\)極座標表示に切り替えるというめんどくさい話をして、その後、天体の運動を司る運動方程式や振り子運動の運動方程式から、単振動の運動方程式から登場した積分

\[\int_0^x\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx\]

と同じ積分が導かれることを見てみよう。

 極座標では下図のように動点Pと共に動く基底ベクトル\( \boldsymbol{e}_r= (\cos\theta,  \sin\theta )\)、\( \displaystyle \boldsymbol{e}_\theta= \left(\cos(\theta+\frac{\pi}{2}),  \sin(\theta+\frac{\pi}{2})\right)=(-\sin\theta, \cos\theta)\)を取る。ここで、ベクトルは矢印記号を省略してボルド体で表示することにする(図では矢印を付けておいたが)。さて、極座標での基底ベクトルは、何故このような方向になるのか説明しよう。

  下図を見てみよう。物体が微小時間\(dt\)あたりにP→Qへ運動したとしよう。この運動を極座標で追尾しようとすると、まず、\(r\)をfixして円周方向(P→H)へ\(rd\theta\)変位し、次に、角度\(\theta+d\theta\)をfixして、動径方向(H→Q)に\(dr\)変位したとして物体の運動を追っていくことになるのだ。

 一般に、座標表示\((a_1, a_2, \cdots,a_n)\)が与えられたとき、座標軸の向き(基底ベクトルの方向)を調べたかったなら、これら座標変数の中から一つ、例えば、\(a_i\)を取り出して、その他の変数はfixする。そして、その変数\(a_i\)を\(a_i+da_i\)と蹴とばしたとき、物体が変動する方向が\(a_i\)軸の向きなのだ。極座標\((r, \theta)\)の場合は、\(\theta\)をfixして\(r\)を\(r+dr\)と変化させたときの方向が動径方向\( \boldsymbol{e}_r\)、\(r\)をfixして\(\theta\)を\(\theta+d\theta\)と変化させたときの方向が円周方向\( \displaystyle \boldsymbol{e}_\theta\)となるわけだ。ここで、注意すべきは、物体の運動に合わせて、動径方向の基底\( \boldsymbol{e}_r\)や円周方向の基底\( \displaystyle \boldsymbol{e}_\theta\)は変化していく、つまり、時間の関数となっていることである。そこで、これらの基底の時間微分を求めておくと、

\[\frac{d}{dt}\boldsymbol{e}_r= (\frac{d}{dt}\cos\theta,  \frac{d}{dt}\sin\theta ) =(\frac{d}{d\theta}\cos\theta \cdot \frac{d\theta}{dt},  \frac{d}{d\theta}\sin\theta \cdot \frac{\theta}{dt})\]

\[=(-\sin\theta \cdot \omega,  \cos\theta \cdot \omega)=\omega\boldsymbol{e}_\theta\]

\[\frac{d}{dt}\boldsymbol{e}_\theta= (-\frac{d}{dt}\sin\theta,  \frac{d}{dt}\cos\theta ) =(-\frac{d}{d\theta}\sin\theta \cdot \frac{d\theta}{dt},  \frac{d}{d\theta}\cos\theta \cdot \frac{\theta}{dt})\]

\[=(-\cos\theta \cdot \omega,  -\sin\theta \cdot \omega)=-\omega\boldsymbol{e}_r\]

 以上のもとで、物体の位置\( \boldsymbol{r}\)、速度\( \boldsymbol{v}\)、加速度\( \boldsymbol{a}\)を極座標で表していこう。

  \( \boldsymbol{r}=r\boldsymbol{e}_r\)

  \( \displaystyle\boldsymbol{v}=\frac{d}{dt}\boldsymbol{r}=\frac{dr}{dt}\boldsymbol{e}_r+r\frac{d\boldsymbol{e}_r}{dt}=\dot{r}\boldsymbol{e}_r+r\omega\boldsymbol{e}_\theta\)

  \( \displaystyle\boldsymbol{a}=\frac{d}{dt}\boldsymbol{v}=\ddot{r}\boldsymbol{e}_r+\dot{r}\dot{\boldsymbol{e}_r}+\dot{r}\omega\boldsymbol{e}_\theta+r\dot{\omega}\boldsymbol{e}_\theta+r\omega\dot{\boldsymbol{e}_\theta}\)

   \(=\ddot{r}\boldsymbol{e}_r+\dot{r}\omega\boldsymbol{e}_\theta+\dot{r}\omega\boldsymbol{e}_\theta+r\dot{\omega}\boldsymbol{e}_\theta-r\omega^2\boldsymbol{e}_r =\left(\ddot{r}-r\omega^2\right)\boldsymbol{e}_r+\left(2\dot{r}\omega+r\dot{\omega}\right)\boldsymbol{e}_\theta\)

 フゥーッ!これで極座標への書き換えが終わったので、後は、物体に作用する力\(\boldsymbol{F}\)も動径方向と円周方向に

   \(\boldsymbol{F}=F_r\boldsymbol{e}_r+F_\theta\boldsymbol{e}_\theta\)

と分解する。以上より、運動方程式:\(m\boldsymbol{a}=\boldsymbol{F}\)の成分表示は、

   動径成分:\(\displaystyle m\left(\ddot{r}-r\omega^2\right)=F_r\)

   円周成分:\(\displaystyle m\left(2\dot{r}\omega+r\dot{\omega}\right)=F_\theta\)

となるのである。それでは早速これを適用してみよう。

〈例1〉太陽の周りを太陽から万有引力を受けて運動する地球。

 太陽を原点O(太陽は地球に比べて十分大きいので不動とする)、動点Pを地球とする。地球が太陽から受ける万有引力は動径方向逆向き、円周方向には力が働かない。太陽の質量を\(M\)、地球の質量を\(m\)、万有引力定数(キャベンディッシュ定数)を\(G\)とすると、地球の運動方程式は以下のようになる。

   動径成分:\(\displaystyle m\left(\ddot{r}-r\omega^2\right)=-G\frac{mM}{r^2}\) …①

   円周成分:\(\displaystyle m\left(2\dot{r}\omega+r\dot{\omega}\right)=0\) …②

 さて、これら二式から\(\omega\)を消去しよう。②の両辺に\(r\)を乗じると、

   \(\displaystyle 0=m\left(2r\dot{r}\omega+r^2\dot{\omega}\right)=\frac{d}{dt}\left(mr^2\omega\right)\) よって、\(\displaystyle mr^2\omega=l\)(一定)

 これは角運動量の保存則(orケプラーの第二法則である面積速度の保存則)を表している。さて、この式から、\(\displaystyle \omega=\frac{l}{mr^2}\)として、①へ代入する。

   \(\displaystyle m\ddot{r}=mr\omega^2-G\frac{mM}{r^2}=\frac{l^2}{mr^3}-G\frac{mM}{r^2}\)

 この式の両辺に\(\dot{r}\)を乗じて第一積分を導いてみよう。

   \(\displaystyle 0=m\dot{r}\ddot{r}-\frac{l^2}{mr^3}\dot{r}+G\frac{mM}{r^2}\dot{r}=\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}m\dot{r}^2+\frac{l^2}{2mr^2}-G\frac{mM}{r}\right)\)

 より積分定数を\(E\)として第一積分

\[\displaystyle \frac{1}{2}m\dot{r}^2+\frac{l^2}{2mr^2}-G\frac{mM}{r}=E\]

 を得る。さて、ここで時間変数\(t\)を角度変数\(\theta\)に変更する。

\[\dot{r}=\frac{dr}{dt}=\frac{dr}{d\theta}\frac{d\theta}{dt}=\frac{dr}{d\theta}\omega=\frac{dr}{d\theta}\frac{l}{mr^2}\]

  この式を第一積分(力学的エネルギー保存則)の式に代入すると、

   \[\frac{1}{2}m\left(\frac{dr}{d\theta}\right)^2\left(\frac{l}{mr^2}\right)^2+\frac{l^2}{2mr^2}-G\frac{mM}{r}=E\]

  更に、\(\displaystyle r=\frac{1}{u}\)と置換すると、\(\displaystyle dr=-\frac{1}{u^2}du\)となるので、上式は

\[\frac{1}{2}m\left(-\frac{1}{u^2}\frac{du}{d\theta}\right)^2\left(\frac{l}{m}u^2\right)^2+\frac{l^2}{2m}u^2-GmMu=E\]

  ここで、\(u\)について平方完成などして整理すると、

\[\frac{l^2}{2m}\left(\frac{du}{d\theta}\right)^2+\frac{l^2}{2m}\left(u-\frac{Gm^2M}{l^2}\right)^2=E+\frac{(GM)^2m^3}{2l^2}\]

 両辺を\(\displaystyle \frac{l^2}{2m}\)で割って、\(\displaystyle z=u-\frac{GMm^2}{l^2}\)、\(\displaystyle a^2=\frac{2mE}{l^2}+\left(\frac{GMm^2}{l^2}\right)^2\)と置くと式は更に簡単になって、

\[\left(\frac{dz}{d\theta}\right)^2+z^2=a^2\]

 もう一回、\(\displaystyle x=\frac{z}{a}\)と置いて最終形に持ち込むと、

\[\left(\frac{dx}{d\theta}\right)^2+x^2=1\]

となる。この式を、\(\displaystyle d\theta=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx\)と正符号で解いて(±と書くの面倒なので!)、両辺積分すると、

\[\displaystyle \int d\theta=\int \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx\]

 となり例の積分が登場した。惑星の運動と単振動運動は背後で同じ積分構造を持っていたのである。

〈例2〉振り子運動について

 まず、極座標で説明に用いた図の\(x\)軸を鉛直下向き、\(y\)軸を水平方向、原点Oに糸(長さ\(l\))の他端を固定し、P点には質量\(m\)の小球が取り付けられており、その小球は\(xy\)平面内で振り子運動する。OP(つまり糸)と\(x\)のなす角度を\(\theta\)とする。O→Pの方向が動径方向、OPに直交して、\(\theta\)が増加する方向が円周方向となる。

 このものとで、\(r=l\)一定!なので、\(\dot{r}=0\)、\(\ddot{r}=0\)、更に糸の張力を\(S(\theta)\)として小球の運動方程式は以下のようになる。

   動径成分:\(\displaystyle -ml\omega^2=-S(\theta)+mg\cos\theta\) …①

   円周成分:\(\displaystyle ml\dot{\omega}=-mg\sin\theta\) …②

 ここで、①式は、\(\omega\)を②式から求まったとして、糸の張力\(S(\theta)\)を決めるための式なので、ここでは関係ない。問題なのは②式である。早速、第一積分を導こう。\(r=l\)一定!なので、小球の速度は

   \( \displaystyle\boldsymbol{v}=\frac{d}{dt}\boldsymbol{r}=\dot{r}\boldsymbol{e}_r+r\omega\boldsymbol{e}_\theta=l\omega\boldsymbol{e}_\theta\)

となり、円周成分しかないことがわかる。そこで、円周方向の運動方程式②の両辺に円周方向の速度成分\(v=l\omega=l\dot{\theta}\)を乗じることになる。

  \(\displaystyle 0=mvl\dot{\omega}+mgv\sin\theta=mv\dot{v}+mgl\dot{\theta}\sin\theta=\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv^2-mgl\cos\theta\right)\)

これより第一積分(力学的エネルギーの保存則)は以下のようになる。ここで、振れ角の最大値を\(\theta_0\)として、この時の小球の速度はゼロであることに注意すると、

\[\frac{1}{2}mv^2-mgl\cos\theta=E=\frac{1}{2}m0^2-mgl\cos\theta_0=-mgl\cos\theta_0\]

\[v=\pm\sqrt{2gl\left(\cos\theta-\cos\theta_0\right)}\]

を得る。\(\displaystyle v=l\dot{\theta}=l\frac{d\theta}{dt}\)より、上式は以下のように変形できる。

\[\sqrt{2\frac{g}{l}}dt=\pm\frac{1}{\sqrt{\cos\theta-\cos\theta_0}}d\theta  …③\]

 ここで、半角の公式を使うと\[\cos\theta-\cos\theta_0=1-2\sin^2\frac{\theta}{2}-1+2\sin^2\frac{\theta_0}{2}=2\left(k^2-\sin^2\frac{\theta}{2}\right)\]

但し、\(\displaystyle k=\sin\frac{\theta_0}{2}\)と置いた。更に、\(\displaystyle kz=\sin\frac{\theta}{2}\)と変数\(z\)を導入する(置換する)。

 \(\displaystyle kdz=\frac{1}{2}\cos\frac{\theta}{2}d\theta\) より

 \(\displaystyle d\theta=\frac{2k}{\cos\frac{\theta}{2}}dz=\frac{2k}{\sqrt{1-\sin^2\frac{\theta}{2}}}dz=\frac{2k}{\sqrt{1-k^2z^2}}dz\)

 \(\displaystyle \cos\theta-\cos\theta_0=2\left(k^2-\sin^2\frac{\theta}{2}\right)=2k^2\left(1-z^2\right)\)

以上より③式の両辺を\(\sqrt{2}\)で割って右辺を\(z\)で書き直すと、

\[\sqrt{\frac{g}{l}}dt=\pm\frac{1}{2k\sqrt{1-z^2}}\frac{2k}{\sqrt{1-k^2z^2}}dz=\pm\frac{1}{\sqrt{\left(1-z^2\right)\left(1-k^2z^2\right)}}dz\]

となる。この式を積分すると(積分範囲の吟味はここでは重要でないので省略し、符号もプラスを採用する)、

\[\sqrt{\frac{g}{l}}t=\sqrt{\frac{g}{l}}\int dt=\int\frac{1}{\sqrt{\left(1-z^2\right)\left(1-k^2z^2\right)}}dz\]

を得る。ここで、\(k\)がとても小さい、つまり、最大の振れ角\(\theta_0\)が十分小さ時、\(k^2\)は無視できるので、上の式は、

\[\sqrt{\frac{g}{l}}t=\int\frac{1}{\sqrt{\left(1-z^2\right)}}dz\]

となり例の積分が登場した。ここで、\(k\)を無視しない時はガウス・アーベル・ヤコビの楕円積分となるのだが、この世界の扉を開けてしまうと、複素関数を出発点として、超幾何微分方程式とか、楕円曲線とか、数学のすべての世界を旅することになり、収拾がつかなくなるし、僕の能力を遥かに超えてしまう。あくまで、ラグランジアンの話を始めるための準備体操として、現在の話をやっているので扉を開けるのは勘弁ね。

 このように見てくると、調和振動子の運動、万有引力の運動、振り子の微小振動運動はみんな、

\[\int\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx\]

なる積分をDNAに持っていることがわかった。更に、オイラーの公式(世界で一番美しい公式)やグレゴリー・ライプニッツ公式なんかともつながっていて、特に、グレゴリー・ライプニッツの公式は素数とも関係していた。高校で登場するこの初等的積分がこのように色々な世界を結び付けていることに、僕はとてもこの積分を愛おしい思ってしまうのである。

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