息子のトクチンはテスト勉強ということで、今日は(今日もか!最近はだんだんトクチンもオヤジの相手をしてくれなくたって来たぞ。吾輩もそろそろ独り立ちして、釣三昧の日々が近づいてきているのかもしれないな)、奥三河の主峰 三瀬明神山を乳岩コースから登ろうと朝5時に家を出発した。国道301号線で作手経由で新城、そして、長篠、湯屋温泉を経て、宇連ダム下の駐車スペースに到着。登山口に一番近いスペースは秋の行楽シーズン真っ只中のため、満車状態。仕方なく、更に宇連ダムに近いところにあるスペースにさきもりちゃんを駐車して、準備していると、次から次へと車がやってきた。ここは乳岩巡りをする観光客、明神山に登る登山者、鬼岩を登攀するクライマーが入り乱れてやってくるので、天気の良い秋の日曜日はこんなにも繁盛するんだなあと感心する。
準備ができたので、車道を駆け降り、第一駐車場を通り過ぎ、宇連川の橋を渡って乳岩川に沿った林道を早歩きする。乳岩峡のトレイルの入り口(林道終着点)にはトイレがあったので、用を済ませて外でリュクを背負おうとしたとき、
「あら、防人さん」
と声をかけられた。なんと、日頃お世話になってるボルダリングジムクオーレの店員さんではないか。今日は仲間と鬼岩(おにし)を登りに来たらしい。一日中鬼岩の所にいるとのことなので、帰りに顔出しますと挨拶して、一足早くトレイルを歩み出す。

僕が車を停めたら、続々と車がやってきて駐車し始めた。秋の観光シーズン真っ只中ということか。

登山口に一番近い駐車場は満杯。周囲の道の脇にも車が駐車されていた。仕方なくもっと上流(宇連ダム方向)に駐車場所探しに行ったのだ。

橋の上から宇連川を眺める。流紋岩質凝灰岩を削るように川が流れる。

乳岩(ちいわ)峡の道は車が入り込めないようになっていた。ここから先は歩けということ。

林道はここまでで、ここから先がいよいよ登山道となる。トイレがあるが、水がなくなってしまい、流せない状況になっていた。観光シーズンの時はトイレは事前に済ませておくべし。

乳岩川を渡る橋。なかなか趣がある橋だ。ここを右岸に渡り、乳岩への分岐を過ぎたあたりから、本格的なトレイルが始まる。汗もにじみ出す。

乳岩川には巨岩がゴロゴロ。水線通し(川に沿って)に遡行するのは結構大変かも。登山道はその後、川から離れていくが、しばらく歩くと再び川と寄り添うようになる。

流れを渡って左岸の林の中を歩くと、いきなり巨大な岩が、いくつも威嚇するようにそそり立つ場所にたどり着く。鬼岩(おにし)だ。ここはクライマーにとっても魅力的な場所のようだ。
乳岩(ちいわ)分岐から鬼岩(おにし)まではそれなりに歩く。右岸のトレイルは川から離れ、かなりしっかりと汗をかかされた後、再び乳岩川に沿いだして、左岸に渡って少し行くと鬼岩に到着する。見上げるように天高く突き上げている岩々は、流紋岩室質凝灰岩で、1500万年くらい前の火山活動で噴出した溶岩なのだ。この1500万年前は、中央構造線に沿ってたくさんの火山が登場した時だ。瀬戸内火山岩類とか、石鎚(いしづち)山、紀伊半島の室生火山群、そして、この愛知の鳳来寺山や明神山などもこの時代に形成されたわけだ。2000~1500万年前にはユーラシア大陸に付加帯としてくっついていた日本が分離して列島になった、つまり、日本海が開いた時期で、大変目まぐるしい変化が日本を襲っていた時代である。そのときの置き土産としての凝灰岩を、ある人はその上を歩き、ある人はその側壁を攀じ登り、ある人は遠方より眺める。このような悠久の時の流れの中に身を置くと、鳥肌が立ち、もっと地質のことを勉強したいと思ってしまう。「若者は夢を語れ。中高年は語らず即行動せよ!」。のんびりしていたらあっという間に寿命が尽きてしまうからね。
《補足》火山岩は二酸化ケイ素(SiO₂)の含有量で分類されていて、多い順に
流紋岩、安山岩、玄武岩
と区分される。更に火山の形も
SiO₂が多い:溶岩円頂丘、火山岩尖…有珠山、昭和新山
SiO₂が中位:成層火山…浅間山(日本の多くの火山は安山岩質)
SiO₂が少ない:溶岩台地、楯状火山…キラウエア火山、マウナロア火山
有名な富士山は不思議なことに玄武岩質溶岩を排出し続けている。玄武岩から成る海洋プレート上のキラウエアが玄武岩質というのはしっくりくるが、富士山は何故に?
鬼岩以降の登山道は、更に傾斜を増してくる。そして三瀬分岐以降は鎖場あり、高度感ある岩場の通過ありと目まぐるしく変化し、登山者を飽きさせない。その分、山頂は展望台こそあるが、それ以外は平凡で僕的には興ざめだった。寒さに震えながら飯を作り、食べ終わった後はあまりのんびりせずすぐに下山開始。途中の馬の背の方が景色良く、雰囲気満点であるから、そのあたりで飯にすればよかったと後悔した。帰路、馬の背に差し掛かると、梯子を上がってくる人がいたので、のんびり待っていると、登り切って視線を合わすと、いきなり、
「ありがとう!いい営業スマイルだ。写真撮ろうか」
と話しかけてきたので、お互い、写真を撮り合ってしばし山の話。
「北アルプスに登ったりしていたんだけど、雪が降って登れなくなったのでこちらに来たんだよ」
とのこと。千葉に住んでいたけど、今は、転勤で恵那に住んでいるらしい。
「北アルプスはどちらの山に登るんですか?」
と尋ねると、
「燕岳(つばくろだけ)とか」
と言ったので、
「燕山荘(えんざんそう)はなかなかいい山小屋ですね。蝶ヶ岳、常念、大天井、燕岳と縦走しても楽しいですよね!」
と返すと、
「詳しいなあ!流石、営業だけあるな」
「…(営業じゃあないんだけどなあー)…」
「あッちこっちお得意先に頭下げて、給料もらって、それがみんな子供の教育費に吸い取られて、我々オヤジはお小遣い削られて、高速使えず下道でチンタラちんたら登山だもんだあー」
「…(イヤーだから、僕は営業じゃあないってば―)…」
「お互い大変だけど、営業頑張ろうな!それじゃまたどこかの山で‼」
「はあ、それではまたどこかで(だから、営業じゃあないってばッ)…」
ポカンと彼を見送り、しばし宙を泳いでいた視線を梯子に移し、集中力を高め下り始めた。下山はスキーでコブ斜面を滑り降る要領で調子よく、アッという間に鬼岩に到着。朝会ったクオーレの女性クライマーの人としばしクライミング談義をして、僕は一足先に下山。ちなみに、彼女たちは暗くなってからもライトを頼りに登攀を続け、帰りは夜道をヘッドライト照らして戻ってきたそうだ。
途中、乳岩巡りをして、その流紋岩質凝灰岩の創り出す芸術に舌を巻き、最高の気分でさきもりちゃんの所に戻ってきたのだが…。

そそり立つ鬼岩。こんなに巨大な岩がいくつも森の中に立ちはだかっているのだ。

鬼岩を過ぎると、胸突き八丁の急登が始まる。再び汗がしたたり落ちる。

ワッセワッセ…、ひたすら胸突き八丁を登る。

6合目の三瀬道分岐に到着。ここは左折だ。

巨岩の鎖場から始まり、スリリングな尾根歩きが続く。ちょっとしたクライミング要素があり、高度感もあるので退屈しない。

馬の背に上がる梯子。この辺りは転落事故もあった場所なので、慎重に行動したい。堕ちたら間違いなくあっちの世に直行だ。

これが馬の背。景色は最高だが、足元は注意したいね。気を抜きすぎないように!

馬の背からの西方面の眺め。眼下に鳳来湖、右やや上は宇連山かな!?

オッと!アングロサクソン的10頭身の若者が馬の背に佇んでいるぞ!出会った若者同士写真を撮り合う。10分ほど話し込むが、相手は僕を営業職と決め込んでいて、別れ際、「お互い営業頑張ろうなあ」と言って去って行った。

岩のトンネルを通ったり!

岩ゴロゴロの尾根歩きが続いたり!

転落事故現場のようだ。木が茂っているので、高度感が鈍るが、明らかに堕ちたらヤバい。

両脇に木が生えているので、まだましだが、現場はなかなかの高度感が漂っている。

頂上は展望台があって、そこからの景色は良いが、山頂としては興ざめ。馬の背あたりで昼飯にした方がはるかに風流だった。しかし、腹減ったので、少し下がって風を遮ってくれるところで昼飯の準備にかかることにした。

兎に角、今日は風が強く寒い。早く暖かい昼飯を作るぞ。といってもお湯を温めるだけだが。

今日は中村屋のカリーだ。この新宿中村屋というWordにも僕は弱い。なんか、高級そう。カレーでなくてカリーというところが大正ロマン的。まあ、中村屋がカリーとボルシチを販売始めたのは昭和初期だけどね。

下山してきて、乳岩(ちいわ)への分岐があったので、この際、乳岩巡りもしてみるかと思って、観光客に交じって一周してみることにした。

70度の階段は結構急で、膝が当たってしまう。そのまま登った方が怖くないと思ってしまう。

ムムムッ!巨石が岩の間に挟まっているぞ。なかなかワクワクする自然の演出。

通天門だ。真ん中にはさっき登った明神山がどっかりと腰を下ろしている。安定感のある素晴らしい景色だ。

自然が作り上げた岩の芸術作品群だ。寄り道してよかった。ここで、おやつにチョコチップパンを食べる。

ここが有名な乳岩か。凝灰岩中の石灰質が溶け出して、天井部が乳房状の鍾乳石を作っていることから、乳岩と名付けられたようだ。噂では猫に見えるそうなのだが、吾輩にはさっぱり! アッ!猫に見えてきたぞ。なるほどね。

乳岩洞窟内には沢山の観音様が祀られていた。乳岩川の渓谷美と、奇岩が織りなす自然の芸術は是非とも見る価値あり。僕も長年名古屋に住んでいたけど、はじめて来たのだった。

乳岩の洞窟を外から見るとこうなっている。この中に階段を使って入り込んでいくのだ。
服を着替えて、さっぱりしてから運転席に乗り込み、エンジンスタートボタンを押したのだが・・・。エンジンかからない。もう一度、聞き耳を立ててスタートボタンを押すと、キュルキュルキュルとセルモーターが虚しく回転する音だけが聞こえてくる。「なななっなんと!エンジンかからないぞ」焦り気味になり、何度かスタートボタン押すも不発に終わる。間をおいて押すと、今度はエンジンが始動するが、何とも心細いエンジン音である。すぐに、エンジン停止!
「さーて、困ったことになったぞ」
こんな山の中で吾輩はどうなるのだろうか? ドナドナ日記1へ続く。
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