Cafe Lagrange (雨読編10:定数係数二階微分方程式の解き方 その2)

Cafe Lagrange 雨読編

 浪人の時の夏(防人は一浪しているのである)、大阪の梅田コマ劇場で”レ・ミゼラブル”というミュージカルをやっているという情報をテレビで知った。それまで、ミュージカルと言うと、山梨の田舎で見た地域の劇団の子供向けのモノだったり、お母さんと一緒の歌のお兄さん、お姉さん的なもので、見に行くのは年頃の男子には何となく恥ずかしいものという固定観念が染みついていた。だが、テレビの画面に映し出される舞台風景は(レ・ミゼの有名なバリケードシーンだったと思う)、今までの固定化したイメージを一瞬で吹き飛ばすように大掛かりで、緻密で、その舞台装置の上で演じる俳優さんたちの歌唱も抜群だった。ミュージカルに対する固定観念が一瞬にして崩壊し、「これは見に行かなくては!」と生理的に直感し、おふくろの所に駆け寄った。

「大阪の○○予備校でないとどうしても受講できない物理の大事な講座があるんだ。これをとらないと、大学入試今年もヤバいかもしれない(なわけないだろうッ)」

と訴えると

「あらッ、そーうッ!だったら行ってきんさい(広島弁)」

と言うおふくろに間髪入れずに、

「それと、数学も重要な講座あるのでついでに受けてくるわ」

と言って、物理と数学の講習代をもらい、物理は本当に申し込んだが、数学の講座代はミュージカルの費用(なんとS席で予約してしまった)につぎ込んでしまった(天国のおふくろッ!スマン‼)。

 現実に受けた物理の講習は、先生が70歳以上かと思えるくらいの高齢の人で、3時間の授業のうち、最初の1時間半くらいで連日バテてしまい、その後は自習タイムになるという信じられない内容。質問に来てもいいというが、行ってみると長蛇の列。やっと質問にたどり着けても、怖いのなんの、弩叱られて終わりという夏期講習内容に、”ああーッ!無常”と嘆きながら、最終日は梅田コマ劇場で”レ・ミゼラブル”を観劇し、壮大な舞台装置、素晴らしい歌唱力の俳優さん(ジャンバルジャンが鹿賀 丈史、フォンティーヌ役が僕の大好きな岩崎宏美、ジャベール役は村井 國夫だったはず)、美しく迫力がある歌の数々に感激し、ふわふわした状態で山梨の家にたどり着いたのだった。特に岩崎宏美が歌う”I Dreamed a Dream(ゆめやぶれて)”は耳にこびりついて離れることが無く、CDが発売されたときにはすぐに購入して、以後繰り返し聴いたのだった。少し前、車(パジェロ)でそのCDを聴きながら、”I Dreamed a Dream”がかかった時、奥さんに、

「やっぱ、岩崎宏美の歌唱力は最高だわ」

と僕が言うと、奥さんは怪訝そうな顔をこちらに向けて、

「このCDのフォンティーヌ役は岩崎宏美じゃあないよ。声違うじゃん」

「エ”ッー!今まで30年以上岩崎宏美だと思って聴いてたッ!失われた30年だッ」

と叫んだら、奥さんは一言

「勝手に失っただけじゃない」

 まあ、パジェロの音質はいまいちだったわけで、ランドローバーの車の音響システム、特にメリディアンだったら間違うことはなかったはずと現在では自分に言い聞かせている毎日だ。

 この”レ・ミゼラブル”は本来はヴィクトル・ユーゴーの長編歴史小説で、1815年~1833年のフランスを描いたものだ。ナポレオンがワーテルローの戦いで歴史的大敗を喫し、セントヘレナ島へ幽閉されたあたりから物語が始まる。王政復古によりルイ18世(1793年、マリーアントワネットと共に断頭台の露と消えたルイ16世の弟)、シャルル10世、7月革命後のルイ・フィリップ王、そして、ラマルク将軍がコレラで死亡して、それを引き金にパリで6月暴動が発生(死傷者は800人を上回ったらしい)したあたりまでが描かれている。ミュージカルでは、原作をものすごい勢いで端折っているので、前後関係が「?」となることも度々あったが。

 ところで、この”レ・ミゼラブル”が描いた時代にスッポリと収まる人生を送った数学者、大数学者がいる。彼の名前は、エヴァンリスト・ガロアである。僅か20年の人生で、それまでの数学の方向性を劇的に変革させてしまうような概念を数学世界に与えて逝ったのである。ちなみに、ガロアが決闘で死んだのが1832年5月30日、その二日後の6月1日、ラマルク将軍がコレラに罹患して死亡し、6月暴動が勃発するのだった。リーダー・アンジョルラスやマリウスが歌う民衆の歌が聞こえてくるようだ。Do You Hear the People Sing? ♪♪…!

 代数方程式を解くということは、数の世界を拡大することである。例えば、整数係数の一次方程式\(ax+b=0\) 但し\(a\)、\(b\)は整数(足算、引算、掛算はOKだが割り算は許されていない)とする。特に、\(a\)はゼロでない時、この方程式を解くと、解は\(\displaystyle x=-\frac{b}{a}\)と有理数(足算、引算、掛算に加えて割算も許されている。これを数学では”体”という)になり、数の世界が広がった(整数は有理数に含まれるよね)。

 次に有理係数の二次方程式:\(ax^2+bx+c=0\)  但し、\(a\)、\(b\)、\(c\)は有理数!

を解くことを考えてみよう。この解を\(\alpha\)、\(\beta\)とすると、これらの基本対称式は

\(\displaystyle \alpha+\beta=-\frac{b}{a}\)…①、 \(\displaystyle \alpha\beta=\frac{c}{a}\)…②

となるが、これだけから解の公式は得られない。そこで重要なのが、\(\alpha-\beta=?\)の値であるが、これを二乗すると対象式(\(\alpha\)と\(\beta\)の入れ替えで不変となる式)になるので、上記の基本対称式①、②で表されるはずである(任意の対称式は基本対称式で表せる)。

\(\displaystyle (\alpha-\beta)^2=(\alpha+\beta)^2-4\alpha\beta=\frac{b^2-4ac}{a^2}\)

\(\alpha>\beta\)とすると、\(\displaystyle \alpha-\beta=\frac{\sqrt{b^2-4ac}}{a}\)…③

を得る。これで、①と③を連立することで、二次方程式の解の公式

\(\displaystyle \alpha=\frac{-b+\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\)、\(\displaystyle \beta=\frac{-b-\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\)

を得るのである。この解の公式を見ると、有理数を\(p\)、\(q\)とすると、\(p+q\sqrt{D}\)という数の世界(拡大体)に、有理数の世界(有理数体)から拡大されていることがわかる。但し、\(D=b^2-4ac\)と置いた。このように代数方程式を解くということは数の世界を拡大していくことである。ガロアはこの拡大の仕方とガロア群という群の縮小の仕方が対応していることに気が付き、ガロア群の構造を調べることで、代数方程式を加減乗除(四則演算)と冪根をとるという行為だけでは、五次以上の代数方程式には解の公式が存在しないことを示したのである。もちろん楕円関数を用いるといった解析的な行為(微分積分)を許せば五次以上の代数方程式の解の公式を作ることも出来るが。

 例えば、上の二次方程式、また基本対称式①、②は、解の置換

\(\sigma : \alpha \longrightarrow \beta, \beta \longrightarrow \alpha \)、  \(e : \alpha \longrightarrow \alpha, \beta \longrightarrow \beta \)

に対して対称であるが、方程式を解いて解の公式を手に入れるためには③式が必要なわけで、この式は明らかに\(\sigma\)の置換をしてしまうと、マイナスが登場するので不変でない(対称でない)。つまり、解の公式や③式は\(e\)の置換(何もしないという置換)についての対称性しか残っていないわけである。二次方程式や対称式①、②の世界ではガロア群\(\{e, \sigma \}\)の対称性があるが、解の公式や③式のレベルになるとガロア群の対称性が破れて一番小さな群\(\{e\}\)に潰れてしまう。ガロアはこのガロア群のつぶれ方を観れば、複雑な数の世界の拡大(体の拡大)、つまり、解の公式を得るための複雑な計算をしなくても、解の公式が作れるかどうかがわかり、特に五次以上の代数方程式には解の公式が無い(四則演算と冪根をとるという代数計算だけに限れば)ことを証明したのである。

 ガロアは死の直前、代数方程式のガロア群の内容を、友人のオーギュスト・シュヴァリエに長文の手紙(ガロアの遺書)で送っていて、その最後の方で以下の様に述べている。

『親愛なるオーギュスト君、君も知っているように、これらが僕が探求したすべての題目ではない。僕の思索の中心は、最近は超越解析の曖昧の理論への応用に向けられている…中略…しかし僕には時間がない。僕のアイディアはこの広大な分野において十分に発展されたとは言えないのだ。…略』

 ここに登場する”曖昧の理論”とは何か?諸説あるが、一つは代数方程式のガロア理論を微分方程式のガロア理論へと発展させようとしたのではないかと言われている。この試みは、ノルウェーの数学者ソーフス・リーに受け継がれ、彼は一生をかけてリー群の理論を構築した。その後、ピカールは線形微分方程式のガロア理論を構築し、リーの志の一部を完成させた。更にヴェッシオは一生を捧げ、無限次元の微分ガロア理論を構築しようとした。しかし、無限次元の理論は難しく、その後停滞していたが、近年、梅村やマルグランジュによって大きな進展があり、新たに注目を浴びるようになっているようである。この辺りのことは、以下の本を読むととても刺激になるのでおススメよ。

  ガロア 加藤文元著 中公新書、 

  ガロア 偉大なる曖昧さの理論 梅村浩著 現代数学社

 さーて、今回も長くなってしまったが、これからが線形微分方程式の解を求めるという本題に突入。

 今回は前回(雨読編9)でやった事を、(1)等加速度型、(2)空気抵抗型、(3)調和振動型の各運動方程式(微分方程式)に適用してみようというものである。ここで、前回の復習も兼ねてフローチャートを構築しておこう。

非斉次二階微分方程式 : \(\displaystyle \ddot{x}+a\dot{x}+bx=f(t)\)

一般解:\(x=x_p +x_k\)  \(x_p\)は特解、\(x_k\)は核であり、以下を満たす。\[\ddot{x_p}+a\dot{x_p}+bx_p=f(t)\]\[\ddot{x_k}+a\dot{x_k}+bx_k=0\]

\(\displaystyle \boldsymbol{y_k}=\left(\begin{array}{c} x_k \\ \dot{x}_k \end{array}\right) \)なる二次元ベクトル\(\boldsymbol{y_k}\)を導入し、核の方程式を書き換える。

核の微分方程式:\(\displaystyle \frac{d}{dt}\boldsymbol{y_k}=\boldsymbol{A}\boldsymbol{y_k}\) …(*)  但し、\(\displaystyle \boldsymbol{A}=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ -b & -a \end{pmatrix}\)

 (*)の解:\(\displaystyle \boldsymbol{y_k}=e^{\boldsymbol{A}t}\boldsymbol{c} \) …(sol) 但し \(\boldsymbol{c}=\left(\begin{array}{c} c_1 \\ c_2 \end{array}\right) \) 

 一般解:\(\displaystyle \boldsymbol{y}=\boldsymbol{y_p}+\boldsymbol{y_k}=\boldsymbol{y_p}+e^{\boldsymbol{A}t}\boldsymbol{c} \) 位置\(x\)と速度\(\dot{x}\)がセットで求まる。

(1)等加速度型:\(\displaystyle \ddot{x}=g\) 

〈特解の決定〉まあ、これは何も頭を使うこともなく、\(\displaystyle x_p=\frac{1}{2}gt^2\)とわかる。

〈核(kernel)の決定〉行列は\(\displaystyle \boldsymbol{A}=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}\)であるから、

\[\boldsymbol{A}^2=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0 & 0\\ 0 & 0 \end{pmatrix}=\boldsymbol{O}\]

となるので、この時の行列(等速直線運動のDNAを持つ行列)\(\boldsymbol{A}\)は二乗するとゼロ行列\(\boldsymbol{O}\)になる性質を持つことがわかる。このため、

 \(\displaystyle e^{\boldsymbol{A}t}=\boldsymbol{1}+\frac{1}{1!}\boldsymbol{A}t+\frac{1}{2!}\boldsymbol{A}^2 t^2+\cdots \frac{1}{n!}\boldsymbol{A}^n t^n \cdots \)

  \(\displaystyle =\boldsymbol{1}+\frac{1}{1!}\boldsymbol{A}t=\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}t=\begin{pmatrix}1 & t \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\)

となるので、一般解が以下のように求まる。

 \(\displaystyle \begin{pmatrix}x \\ \dot{x} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}x_p \\ \dot{x}_p \end{pmatrix}+\begin{pmatrix}x_k \\ \dot{x}_k \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\frac{1}{2}gt^2 \\ gt \end{pmatrix}+\begin{pmatrix}1 & t \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_1 \\ c_2 \end{pmatrix}\)

     \(=\displaystyle \begin{pmatrix}c_1+c_2 t+\frac{1}{2}gt^2 \\ c_2+gt \end{pmatrix}\)

(2)空気抵抗型:\(\displaystyle \ddot{x}+a\dot{x}=g\) 但し、\(\displaystyle a=\frac{k}{m}\) ここではより一般性を演出するために非斉次項の\(g\)も付け加えておいた。

〈特解の決定〉まあ、これも頭を使うこともなく、\(\displaystyle x_p=\frac{g}{a}t \)とわかる。

〈核(kernel)の決定〉行列は\(\displaystyle \boldsymbol{A}=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 0 & -a \end{pmatrix}\)であるから、

\[\boldsymbol{A}^2=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 0 & -a \end{pmatrix}\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 0 & -a \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0 & -a \\ 0 & (-a)^2 \end{pmatrix}\]

\[\boldsymbol{A}^3=\boldsymbol{A}^2\boldsymbol{A}=\begin{pmatrix}0 & (-a) \\ 0 & (-a)^2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 0 & -a \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0 & (-a)^2 \\ 0 & (-a)^3 \end{pmatrix}\]

とここまで計算すれば規則性は見えるから、後は\(\displaystyle e^{\boldsymbol{A}t}\)を計算するのみだ。

 \(\displaystyle e^{\boldsymbol{A}t}=\boldsymbol{1}+\frac{1}{1!}\boldsymbol{A}t+\frac{1}{2!}\boldsymbol{A}^2 t^2+\cdots \frac{1}{n!}\boldsymbol{A}^n t^n \cdots \)

   \(\displaystyle =\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}+\frac{1}{1!}\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 0 & -a \end{pmatrix}t+\frac{1}{2!}\begin{pmatrix}0 & -a \\ 0 & (-a)^2 \end{pmatrix}t^2+\frac{1}{3!}\begin{pmatrix}0 & (-a)^2 \\ 0 & (-a)^3 \end{pmatrix}t^3+\cdots\)

\(\displaystyle =\begin{pmatrix}1 & \frac{1}{1!}t+\frac{1}{2!}(-a)t^2+\frac{1}{3!}(-a)^2t^3+\cdots \\ 0 & 1+\frac{1}{1!}(-a)t+\frac{1}{2!}(-a)^2 t^2+\frac{1}{3!}(-a)^3 t^3+\cdots \end{pmatrix}\)

\(\displaystyle =\begin{pmatrix}1 & \frac{1}{-a}\left(-1+1+\frac{1}{1!}(-a)t+\frac{1}{2!}(-a)^2t^2+\frac{1}{3!}(-a)^3t^3+\cdots \right)\\ 0 & 1+\frac{1}{1!}(-a)t+\frac{1}{2!}(-a)^2 t^2+\frac{1}{3!}(-a)^3 t^3+\cdots \end{pmatrix}\)

\(\displaystyle =\begin{pmatrix}1 & \frac{1}{a}\left(1-e^{-at} \right)\\ 0 & e^{-at} \end{pmatrix}\)

となるので、一般解が以下のように求まる。

 \(\displaystyle \begin{pmatrix}x \\ \dot{x} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}x_p \\ \dot{x}_p \end{pmatrix}+\begin{pmatrix}x_k \\ \dot{x}_k \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\frac{g}{a}t \\ \frac{g}{a} \end{pmatrix}+\begin{pmatrix}1 & \frac{1}{a}\left(1-e^{-at} \right) \\ 0 & e^{-at} \end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_1 \\ c_2 \end{pmatrix}\)

     \(=\displaystyle \begin{pmatrix}\frac{g}{a}t+c_1+\frac{c_2}{a}\left(1-e^{-at} \right) + \\ \frac{g}{a}+c_2e^{-at} \end{pmatrix}\)

(3)調和振動型:\(\displaystyle \ddot{x}+bx=g\) 但し、\(\displaystyle b=\frac{k}{m}>0\) ここでも(2)と同様により一般性を演出するために非斉次項の\(g\)も付け加えておいた。

〈特解の決定〉これも頭を使うこともなく、\(\displaystyle x_p=\frac{g}{b} \)とわかる。

〈核(kernel)の決定〉ここで、計算を美しく決めるために、前回定義した2次元ベクトルのnormalizationを変更しておこう。まず、\(\omega=\sqrt{b}\)なる\(\omega\)を導入する。このもとで、

\(\displaystyle \boldsymbol{y_k}=\left(\begin{array}{c} \omega x_k \\ \dot{x}_k \end{array}\right) \)なる二次元ベクトル\(\boldsymbol{y_k}\)に変更する。このベクトルの元で、

\[\frac{d}{dt}\boldsymbol{y_k}=\left(\begin{array}{c} \omega \dot{x_k} \\ \ddot{x}_k \end{array}\right)= \left(\begin{array}{c} \omega \dot{x_k} \\ -\omega^2 x_k \end{array}\right) =\begin{pmatrix}0 & \omega \\ -\omega & 0 \end{pmatrix}\left(\begin{array}{c} \omega x_k \\ \dot{x}_k \end{array}\right)=\boldsymbol{A}\boldsymbol{y_k} \]

行列は\(\displaystyle \boldsymbol{A}=\begin{pmatrix}0 & \omega \\ -\omega & 0 \end{pmatrix}=\omega \begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}=\omega\boldsymbol{I}\) 但し、\(\displaystyle \boldsymbol{I}=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}\)である。この\(\displaystyle \boldsymbol{I}\)の2乗は

\[\boldsymbol{I}^2=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}=-\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix}=-\boldsymbol{1}\]

であり、虚数\(i\)(\(i^2=-1\))の行列表現であることがわかる。後はこのことに注意して、\(\displaystyle e^{\boldsymbol{A}t}\)を計算するのみだ。

\(\displaystyle e^{\boldsymbol{A}t}=\boldsymbol{1}+\frac{1}{1!}\boldsymbol{A}t+\frac{1}{2!}\boldsymbol{A}^2 t^2+\cdots \frac{1}{n!}\boldsymbol{A}^n t^n \cdots \)

\(\displaystyle =\boldsymbol{1}+\frac{1}{1!}\boldsymbol{I}\omega t-\frac{1}{2!}\boldsymbol{1} (\omega t)^2-\frac{1}{3!}\boldsymbol{I} (\omega t)^3+\frac{1}{4!}\boldsymbol{1} (\omega t)^4 \cdots \)

\(\displaystyle =\boldsymbol{1} \left(1-\frac{1}{2!}(\omega t)^2+\frac{1}{4!} (\omega t)^4 -\cdots \right)+\boldsymbol{I} \left(\frac{1}{1!}\omega t-\frac{1}{3!} (\omega t)^3+\cdots \right) \)

\(\displaystyle =\cos (\omega t) \boldsymbol{1}+\sin (\omega t) \boldsymbol{I} \)

となる。この式

\(\displaystyle e^{\omega t \boldsymbol{I}}=\cos \omega t \boldsymbol{1}+\sin \omega t \boldsymbol{I}=\begin{pmatrix}\cos\omega t & \sin\omega t \\ -\sin\omega t & \cos\omega t \end{pmatrix} \)

は二次元空間の回転行列を表しているが、これはオイラーの公式:\(e^{i\omega t}=\cos\omega t+i\sin\omega t\)の行列表現に他ならない。

 以上より一般解は以下のように求まる。

 \(\displaystyle \begin{pmatrix}x \\ \dot{x} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}x_p \\ \dot{x}_p \end{pmatrix}+\begin{pmatrix}x_k \\ \dot{x}_k \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\frac{g}{b} \\ 0 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix}\frac{1}{\omega}\left(c_1\cos\omega t+c_2\sin\omega t\right) \\ -c_1\sin\omega t+c_2\cos\omega t\end{pmatrix}\)

     \(=\displaystyle \begin{pmatrix}\frac{g}{b}+ d_1\cos\omega t+d_2\sin\omega t \\ \omega \left(-d_1\sin\omega t+d_2\cos\omega t \right) \end{pmatrix}\)

 ここで、\(\displaystyle d_1=\frac{c_1}{\omega}\)、\(\displaystyle d_2=\frac{c_2}{\omega}\)と置いた。

《補足1》(3)の調和振動子の方程式で運動の第一積分は

\[\int_{X_0}^X \frac{1}{\sqrt{1-X^2 }} dX\]

であった。この積分からオイラーの公式:\(e^{i\omega t}=\cos\omega t+i\sin\omega t \)が導かれた。

 一方、今回は\(\displaystyle \boldsymbol{A}=\omega \begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}=\omega\boldsymbol{I}\)なる行列が本質的な役割を果たし、\(\displaystyle e^{ \boldsymbol{A}t}=e^{\omega t \boldsymbol{I}}\)からは二次元の回転行列、すなわち、オイラーの公式の行列表現が導かれた。ここで登場した行列は、運動の第一積分とオイラーの公式という共通のDNAで結びついていたのである。

 更には、第一積分の被積分関数の分母がゼロとなるところ(特異点)は、\(1-X^2=0\) つまり、\(X=1, -1\)であるが、この値が行列\(\boldsymbol{I}\)の非対角成分の数値と一致しているのも面白い。

《補足2》ここで登場したリー群について少し述べておこう。

複素1次元ユニタリー群:\(\displaystyle U(1)=\{e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta |  0\leq\theta\leq2\pi \}\)

実2次元特殊直交群:\(\displaystyle SO(2)=\Big\{\begin{pmatrix}\cos\theta & \sin\theta \\ -\sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix} \Big|  0\leq\theta\leq2\pi \Big\}\)

とは同型である。具体的には写像:\(\varphi U(1) \longrightarrow SO(2)\)を

\[\varphi(e^{i\theta})=\begin{pmatrix}\cos\theta & \sin\theta \\ -\sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix}\]

と定義すればよい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました