Cafe Lagrange (雨読編14:二階微分方程式とラグランジアンの存在:Helmholtz conditions)

Cafe Lagrange 雨読編

 ラグランジュ力学を偏愛する防人にとって、力学で重要人物を上げろと言われたら、ニュートン、ラグランジュ、ヘルムホルツの三人が思い浮かぶ。ニュートンはまずは力学の基盤を構築した人だから外せないのは当たり前だ。次に、ラグランジュが登場するのは、”ラグランジュ力学(ラグランジュの解析力学)”なのだからこれも当たり前だ。ここで、最後のヘルムホルツが何故登場するのかである(これがわかる人はなかなかの通である。雨読13に少し書いたけどね)。実はここが防人にとっての肝なところであり、もしかしたらラグランジュより重要人物なのかもしれない。

サー・アイザック・ニュートン(英: Sir Isaac Newton、1642年12月25日 - 1727年3月20日)
ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ(仏: Joseph-Louis Lagrange、1736年1月25日 - 1813年4月10日
ヘルマン・ルートヴィヒ・フェルディナント・フォン・ヘルムホルツ(Hermann Ludwig Ferdinand von Helmholtz、 1821年8月31日 - 1894年9月8日)

アイザック・ニュートン(1642年~1727年)

 ガリレオ・ガリレイが他界した年、1642年の12月25日にニュートンが生まれている。ちなみにアメリカ合衆国第34代大統領ドワィト・D・アイゼンハワーが他界した1969年に防人が生まれている(勘違いしているんじゃないぞ防人ッ!)。ニュートンが『万有引力の法則』、『流率法と逆流率法(微分積分法)』、『光と色の新しい理念』の三大発見をしたのはケンブリッジを卒業してすぐに故郷のウールソープに滞在した1665~1666年のおよそ18カ月の間だった。この時期、ヨーロッパじゅうにペストが大流行し、1664年から1665年にかけてはイギリスロンドンでも3万人を越す死者が出たため、ケンブリッジ大学も閉鎖。ニュートンとしては故郷に戻らざるおえなかったのだろう。ニュートンの数学・物理学者として脂が乗っていた時期は1663年くらいから1670年くらいまでの間である。それ以外は、卑金属を貴金属に換えるという賢者の石を発見すべく錬金術に夢中になったり、微分積分法発見の先取権を巡るライプニッツとの25年にも及ぶ法廷闘争に明け暮れたり、旧約聖書の文献的研究やヨハネの黙示録の研究を行って地球は2060年まで滅びないということを証明したりしていたのだ。経済学者のケインズは言う。「ニュートンは片足を中世におき、もう一方の足は近代科学の途を踏んでいる」と。

ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ(1736年~1813年)

 ラグランジュの人生にはフランス革命の嵐が直接襲いかかったが、これをうまくくぐり抜け、19世紀へと足を踏み入れて行った数学者である。ラグランジュが数学の勉強を始めたのは17歳の時なのに、翌年には数学上の発見をし、それについての論文をオイラーの所に送り、なんと19歳の若さでトリノ王立工兵学校の教授になっている。これに対して、防人は小学校の時、3ダースの鉛筆の数がわからずおふくろに引っ叩かれ、高校時代はスキー、サイクリング、釣にうつつを抜かしたため、高3の夏の大学別模試の数学で400点満点中26点をたたき出し、54歳の現在まで数学上の発見を何一つなしえていない。このようにラグランジュと防人とには共通点がかなりあるので、親近感を覚えているのである。数学世界において、ラグランジュが陽で、防人が陰の世界を司っているのである(全く、ラグランジュの説明になっていないではないかッ!スイマセン)。

ヘルマン・ルートヴィヒ・フェルディナント・フォン・ヘルムホルツ(1821年~1894年)

 ヘルマン・フォン・ヘルムホルツは1821年、ドイツのポツダムで生まれた。彼の父はギムナジウムの校長で、哲学を学んだ人だったようだ。ヘルムホルツは若い頃から物理学に興味を持っていたが、家庭の経済的な事情から医学を学ぶことになったようだ。彼の父は金にならない哲学などを学んでいたくせに、自分のことは棚上げして息子には実学の医学を学ばせようとしたわけだ。1838年にベルリンのフリードリッヒ・ヴィルヘルム医学研究所に入学し、無料の医学教育を受けた。1843年に同研究所を卒業し、ポツダムの軍隊に配属されたが、空いた時間を物理学の研究に費やし続け、エネルギーの保存則の定式化に多大な貢献をした。更に、二階微分方程式(運動方程式)にラグランジアンが存在するための必要十分条件(Helmholtz conditions)を発見した。この条件こそが、本ブログにおいて最大に重要なことなのである。

 さて、一次元の場合について考えてみよう。運動方程式(二階微分方程式)

\[A(x, \dot{x},t)\ddot{x}+B(x, \dot{x}, t)=0\]

Variational(力学系または二階微分方程式系が最小作用の原理の観点から定式化可能)であるとは、

\[A\ddot{x}+B
=\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}-\frac{\partial L}{\partial x}
\]

なるラグランジアン\(L=L(x, \dot{x}, t)\)が存在することであった。それでは、\(A\)、\(B\)がどのような条件を満たせば\(L\)が存在するのだろうか?その条件が以下のHelmholtz conditionsである。ここでは一次元の場合に限ってこの条件を書き下してみよう。それは、

\[\frac{\partial B}{\partial \dot{x}}=\left( \dot{x}\frac{\partial}{\partial x}+\frac{\partial}{\partial t}\right) A    ★ \]

というものである(導出はまた後で!随分後でやる予定)。具体例でみてみよう。

〈1〉重力場中の調和振動子:\(\displaystyle m\ddot{x}=-kx+mg\)

 両辺を\(m\)で割り、\(\displaystyle \omega=\sqrt{\frac{k}{m}}\)と置くと、上記の運動方程式は

\[\ddot{x}+\omega^2 x-g=0\]

となるので、\(A=1\)、\(\displaystyle B=\omega^2 x-g\)となる。これは明らかに条件★を満たしている。だからラグランジアン\(L\)が存在して、この調和振動系はVariationalなわけだ。ただ、ここでVariationalだということが分かっただけで、「後のラグランジアンの形は各自勝手に見つけなさいよ」というのでは何だか心もとない。これについてラグランジアンの構成方法はHelmholtz conditionsの証明の過程で明らかになるので、証明を説明するときに詳しくやることにして、ここではM.M.VainbergとE.Tontiによるラグランジアンの構成方法を紹介して、この場はしのぐことにする。まず、

\[E(t, x, \dot{x}, \ddot{x})=A(x, \dot{x},t)\ddot{x}+B(x, \dot{x}, t)\]

置いた時、\(L\)は\(u\)についての積分

\[L=x\int_0^1 E(t, ux, u\dot{x}, u\ddot{x})du\]

を実行すれば得られるのだ(Vainberg-Tonti Lagrangian)。

 早速やってみよう。この調和振動系では、

\[E(t, x, \dot{x}, \ddot{x})=\ddot{x}+\omega^2 x-g\]

であるから、

\(\displaystyle L=x\int_0^1 \left\{ u\ddot{x}+\omega^2 ux-g \right\}du\)

 \(\displaystyle =x\left(\frac{1}{2}\ddot{x}+\frac{1}{2}\omega^2 x-g\right) =-\frac{1}{2}\dot{x}^2+\frac{1}{2}\omega^2 x^2-gx+\frac{1}{2}\frac{d}{dt}(\dot{x}x) \)

を得る。ここで、ラグランジアンに時間についての全微分項\(\displaystyle \frac{1}{2}\frac{d}{dt}(\dot{x}x) \)を付け加えても取り除いても運動方程式に影響はないので、ここでは取り去ってしまって、ついでにマイナスを乗じれば、典型的な調和振動系のラグランジアン、

\[L=\frac{1}{2}\dot{x}^2-\frac{1}{2}\omega^2 x^2+gx\]

を得る。 

 さて、今日は最後に今使った時間について全微分項をラグランジアンに付け加えても運動方程式に影響が出ないことを証明して終わることにしよう。ここで、

\[L'(t, x, \dot{x})=L(t, x, \dot{x})+\frac{d}{dt}W(t, x)\]

なる新たなラグランジアン\(L'(t, x, \dot{x})\)を考える。このもとで、新たな作用\(S’\)を考えると、

   \(\displaystyle S’=\int_{t_1}^{t_2}L'(t, x, \dot{x})dt=\int_{t_1}^{t_2}\left\{L(t, x, \dot{x})+\frac{d}{dt}W(t, x)\right\}dt\)

    \(\displaystyle =S+W(t_2, x(t_2))-W(t_1, x(t_1))=S+定数\)

となる。この定数のズレは変分操作で消えるので(微分で定数関数がゼロになるのと似たようなもの)、オイラー・ラグランジュ方程式(運動方程式)には効いてこないわけだ。これは以下のように直接オイラー・ラグランジュ方程式に代入しても確かめることが出来る。まず、

\[\frac{d}{dt}W(t, x)=\frac{\partial W}{\partial t}+\frac{\partial W}{\partial x}\dot{x}\]

であるから、

  \(\displaystyle \frac{\partial L’}{\partial x}=\frac{\partial L}{\partial x}+\frac{\partial^2 W}{\partial x \partial t}+\frac{\partial^2 W}{\partial x^2} \dot{x}\)

  \(\displaystyle \frac{\partial L’}{\partial \dot{x}}=\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}+\frac{\partial W}{\partial x} \)

  \(\displaystyle \frac{d}{dt}\frac{\partial L’}{\partial \dot{x}}=\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}+\frac{\partial^2 W}{\partial t \partial x}+\frac{\partial^2 W}{\partial x^2}\dot{x}\)

となる。よって、

\[\frac{d}{dt}\frac{\partial L’}{\partial \dot{x}}-\frac{\partial L’}{\partial x}=\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}-\frac{\partial L}{\partial x}\]

を得るね。ただ、上記のVainberg-Tontiの変形で登場したのは速度に依存した全微分項であった。つまり、\(\displaystyle W(t, x, \dot{x})=\frac{1}{2}x\dot{x}\)であったが、これは拡張されたオイラー・ラグランジュ方程式

\[\frac{\partial L}{\partial x}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}+\frac{d^2}{dt^2}\frac{\partial L}{\partial \ddot{x}}=0\]

のもとで考えなくてはならず、現段階では省略しておきたい事柄なのであるが(将来、ジェット空間上のラグランジュ力学を定式化するのでその時に詳しく述べるつもりだが)、登場させてしまったので、少し述べておくことにしよう。

\[\frac{d}{dt}W(t, x, \dot{x})=\frac{1}{2}\left(\dot{x}^2+x\ddot{x}\right)\]

であるから、

  \(\displaystyle \frac{\partial L’}{\partial x}=\frac{\partial L}{\partial x}+\frac{1}{2}\ddot{x}\)

  \(\displaystyle \frac{\partial L’}{\partial \dot{x}}=\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}+\dot{x} \)、 \(\displaystyle \frac{d}{dt}\frac{\partial L’}{\partial \dot{x}}=\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}+\ddot{x} \)

  \(\displaystyle \frac{\partial L’}{\partial \ddot{x}}=\frac{\partial L}{\partial \ddot{x}}+\frac{1}{2}x \)、 \(\displaystyle \frac{d^2}{dt^2}\frac{\partial L’}{\partial \ddot{x}}=\frac{d^2}{dt^2}\frac{\partial L}{\partial \ddot{x}}+\frac{1}{2}\ddot{x} \)

 となるので、以下のように拡張されたオイラー・ラグランジュ方程式は不変となる。

\[\frac{\partial L’}{\partial x}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L’}{\partial \dot{x}}+\frac{d^2}{dt^2}\frac{\partial L’}{\partial \ddot{x}}=\frac{\partial L}{\partial x}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}+\frac{d^2}{dt^2}\frac{\partial L}{\partial \ddot{x}}\]

 これ以上追及すると、深い沼にはまり込むことになるので、この話はここで強制終了。

 さて質問!ラグランジアン:\(\displaystyle L=\frac{1}{2}\dot{x}^2+\omega^2 t x\dot{x}\)はどのような運動を記述しているか?なんだか、ラグランジアンが時間にもdependしているので、質が悪そう(ネーターの定理(後ほど説明する)を知っているのであれば、なんだかエネルギーの保存則が成立しなさそうな気もするが)であるが。

 まず、このラグランジアンをオイラー・ラグランジュ方程式にぶち込んでみよう。

     \(\displaystyle 0=\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}-\frac{\partial L}{\partial x}=\ddot{x}+\omega^2 x+\omega^2 t\dot{x}-\omega^2 t\dot{x}=\ddot{x}+\omega^2 x\)

なんと、調和振動子の運動方程式が登場してしまった!これは典型的な調和振動のラグランジアン、

\[L_1=\frac{1}{2}\dot{x}^2-\frac{1}{2}\omega^2 x^2\]

に対して異形のラグランジアン

\[L_2=\frac{1}{2}\dot{x}^2+\omega^2 t x\dot{x}\]

が見つかったのかと思うかもしれないが、実は彼らは時間に関する全微分項のズレだけの関係なのだ。具体的に\(L_2\)は

   \(\displaystyle L_2=\frac{1}{2}\dot{x}^2+\omega^2 t x\dot{x}\)

\[=\frac{1}{2}\dot{x}^2-\frac{1}{2}\omega^2 x^2+\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}\omega^2tx^2\right)=L_1+\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}\omega^2tx^2\right)\]

 このような\(L_1\)と\(L_2\)は同じものと考えてしまえばよいわけで、防人的には異形のラグランジアンとはとらえていない。防人としては、もっと異なる、時間についての全微分項では結び付けられないような異形のラグランジアンたちへ思いを募らせているわけで、そのようなラグランジアンたちを紹介していきたいと思っているのである。

 次回は空気抵抗型の運動方程式についてのラグランジアンの存在、そして、その構成を述べていきたいと思う。

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