Cafe Lagrange (雨読編13:二階微分方程式とラグランジアンの関係)

Cafe Lagrange 雨読編

 今まで雨読編を書いてきて防人としての準備体操も出来たかなあと思われるので、この辺りからいよいよ本論に入って行こうと思う。これは過去10年以上に渡って仕事や家族と過ごした合間の空き時間をすべてつぎ込んで計算してきた内容である。典型的な解析力学の本には登場しないものも多くあり、中には防人オリジナルなもの(論文にするまでのモノではない)も含まれていると思う。これらの事をこのブログ上にまとめておこうと思うのである。

 姉が4年前に他界し、その後の過酷な実家の整理が開始され、姉や父の苛烈なお金の使い込みを目の当たりにして、それまで、チマチマタンス預金をしてきた自分が貧相に感じてしまったのだった。ライフワークとしてのラグランジアンの計算をしていた日常が一変し、お金の計算に代わり、頭の中がどんどん世俗化していった。それと共に「彼らがこんなにもお金を無駄遣い(防人から見てである。本人たちは無駄遣いと思っていないのだろう)したのなら、こっちは長年夢見てきたディフェンダーを購入してやるわい」と思い、自分の埋蔵金を投入する決心がついたのである。そして、実家の整理と平行してディフェンダーライフを備忘録ブログとして記録し、とても充実した日々であった。更に、今年(2024年)の元旦にオヤジが他界実家の整理は、実家の処分という決断になり、より加速しなくてはならない状況となった。一方、ディフェンダーライフはさきもりちゃんの思わぬエンストトラブルにより、豊かさを増したが、不安も多く、実家の整理にかかる費用、そして処分に漕ぎつけることが出来るかどうかなどの問題と相まって色々と心配事も多くなってきた。そんな折、中断していたラグランジアンの計算やブログ上でLatexを使って数式を打ち込んでいると、そのような世間の雑事からすべてが解放され、その間は夢中になれることを発見したのだ。4年ぐらい、ラグランジアンの勉強(解析力学を中心として、その周辺の数学、微分幾何、ファイバー束、ホモロジー代数、ジェットバンドル、層の理論など)を放っていたので、頭がボケまくっていて、悲しいことに、忘れていたりとなんだか自分の能力の低さを痛感することもあり、これはこれでフラストレーションがたまる原因になるかもしれないのだが、まあ、凡人の凡人による凡人のための頭の体操ということで開き直ることにした。数学は考え出すと、四六時中頭を支配されることになる。登山や釣りはその間は夢中になるのだが、下界に戻ってきた時はスッキリと社会の出来事に頭が対応するようになる。しかし、数学は埋没するといかなる時も頭を支配し、自分の身なりがどうなっているかにも注意が行かなくなり、独り言が多くなり、社会と自分との間に幕がかかり始めて、相手が何言っているのかがわかりにくくなる。凡人であるがゆえに、わからないことだらけで頭が支配され、苦しく、楽しく、疲労していくのであるが、その時、脳みそは社会から孤立し、一般人的行動が蝕まれて行き、珍人の度合いが増していくのだろう。まあ、今回からは大好きなラグランジアンの事なので、雑談少なくして早速本論に入って行こう。

解析力学(ラグランジュ力学)に惹かれる訳

 ここで、物体(質点とする)がA地点からB地点へ運動する場合を考える。

ニュートン力学の考え方

 上左図参照。物体に力を書き込み、そのもとで、座標の各成分\(x_i\)ごとに運動方程式\[m\alpha_i=f_i\]を立てる。これは時間に関する二階微分方程式なので、今まで述べてきた方法などを総動員して解き、地点Aから地点Bまでの軌道を決める。

ラグランジュ力学

 上右図参照。いきなり物体の地点Aから地点Bまでのあらゆる経路を考える。その一つの軌道上の各点で運動エネルギー\(\displaystyle \frac{1}{2}mv^2\)の値からそこでの位置エネルギー\(U(x)\)を差っ引いたもの、すなわちラグランジアン\(L\)を\[L=\frac{1}{2}mv^2-U(x)\]として、この値を考える。驚くべきことは、このラグランジアンの値を軌道上ですべて足しあげた値(作用\(S\)という)は、真の軌道(運動方程式を解いて求めた軌道)では最小になるというのである。力学なのに、全く『』が登場せず、従って、力の書き込みもなく、単に作用の最小問題を解くだけでよいのだ(「自然界の創造主であらせられる神は楽をされたがる」と述べたりするとなんだか深淵だね)。これを最小作用の原理という。

 まず、作用\(S\)をきちんと数学的に書き下しておこう。上図の地点Aでの時刻を\(t=t_1\)、地点Bでの時刻を\(t=t_2\)とする。このもとで作用\(S\)はラグランジアン\(L\)の時間積分として、

\[S=\int_{t_1}^{t_2}L(x, \dot{x}, t)dt\]

と定義される。この作用が真の軌道(簡単のため、一次元世界で考えて、真の軌道を\(x\)とする)で最小値を取ったということは、この真の軌道\(x\)からわずかにズラした軌道\(x+\delta x\)(上図の点線軌道)においても作用の値はほとんど変わらないはずだ。これは関数\(f(x)\)で微分を使って極値を求める時に\[ \frac{df(x)}{dx}=0\]を考えるが、\(df(x)=f(x+dx)-f(x)\)であるから、極値では\(f(x+dx)=f(x)\)となり、\(x\)を\(x+dx\)とわずかにズラしても関数\(f(x)\)の値はほとんど変わらないわけだ。これと同じ発想で、作用の極値問題(最小問題をさりげなく極値問題と言い換えている。これからは第一変分のみを考え第二変分は気にしないことにする。微分の言葉では、一次導関数のみ考えて、二次導関数のことは考えない、つまり、極値のみ考えて、極大、、更には最大、最小は考えないのだ)を考察する。以下では位置の変分を\(\delta x(t)=\epsilon\eta(t) \)とする。ここで、\(\epsilon\)は微小量である。また、\(\eta(t)\)は積分の端点では\(\eta(t_1)=0\)、\(\eta(t_2)=0\)となる任意関数である。更に、ここで変分と微分(時間微分)の交換可能性について調べておくと、

\[\frac{d}{dt}\delta x(t)=\frac{d}{dt}\left(\epsilon\eta(t)\right) =\epsilon\frac{d}{dt}\eta(t)=\epsilon\dot{\eta}(t)=\delta\dot{x}(t)\]

となる。このことを記憶にとどめて、以下、作用に対する変分を実行しよう。

\[\delta S=\int_{t_1}^{t_2}\left\{L(x+\epsilon\eta, \dot{x}+\epsilon\dot{\eta}, t)-L(x, \dot{x}, t)\right\}dt\]

であるから、まず、被積分関数の第一項を計算しよう。

\[L(x+\epsilon\eta, \dot{x}+\epsilon\dot{\eta}, t)=L(x, \dot{x}, t) +\frac{\partial L}{\partial x}\epsilon\eta+\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\epsilon\dot{\eta}\]

\[+\frac{1}{2}\frac{\partial^2 L}{\partial x^2}(\epsilon\eta)^2 +\frac{1}{2}\frac{\partial^2 L}{\partial \dot{x}^2}(\epsilon\dot{\eta})^2 +\frac{\partial^2 L}{\partial x \partial \dot{x}}\epsilon^2\eta\dot{\eta}+\cdots\]

 これを\(\delta S\)の式に放り込むと、

\[\delta S=S_1\epsilon+\frac{1}{2}S_2\epsilon^2+\cdots\]

となる。\(S_1\epsilon\)を第一変分、\(\frac{1}{2}S_2\epsilon^2\)を第二変分という。但し、

  \(\displaystyle S_1=\int_{t_1}^{t_2}\left\{ \frac{\partial L}{\partial x}\eta+\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\dot{\eta}\right\}dt\)

  \(\displaystyle S_2=\int_{t_1}^{t_2}\left\{ \frac{\partial^2 L}{\partial x^2}\eta^2+\frac{\partial^2 L}{\partial \dot{x}^2}\dot{\eta}^2+2\frac{\partial^2 L}{\partial x \partial \dot{x}}\eta\dot{\eta})\right\}dt\)

 ここで、最小作用の原理で言う所の真の最小とまでは言えないが、極値については以下となる。

   \(S\)が極小となる経路を取る:\(S_1=0\)、\(S_2>0\)

   \(S\)が極大となる経路を取る:\(S_1=0\)、\(S_2<0\)

 ここで第一変分の式\(S_1\)を以下のように変形し、第一変分公式(Euler-Lagrange equation)を求めてみよう。部分積分の公式を使って以下のように変形していく。ここで、\(\eta(t_1)=0\)、\(\eta(t_2)=0\)となることを思い出しておこう。

\(\displaystyle S_1=\int_{t_1}^{t_2}\left\{ \frac{\partial L}{\partial x}\eta+\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\dot{\eta}\right\}dt=\int_{t_1}^{t_2}\left\{ \frac{\partial L}{\partial x}\eta+\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\eta\right)-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\right)\eta\right\}dt\)

  \(\displaystyle =\int_{t_1}^{t_2}\left\{ \frac{\partial L}{\partial x}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\right\}\eta dt+\left[\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\eta\right]_{t_1}^{t_2}\)

  \(\displaystyle =\int_{t_1}^{t_2}\left\{ \frac{\partial L}{\partial x}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\right\}\eta dt\)

 ここから先の結論に至るために、以下のデュ・ボア・レイモンの補題を示す。

《補題》\(f(t)\)を \(a\leq t \leq b\) で定義された実数値関数として、\[\int_a^b f(t)\eta(t)dt=0\]が\(\eta(a)=\eta(b)=0\)となるあらゆる\(\eta(t)\in C^2[a, b]\)、(但し\(t\in [a, b]\))に対して上式が成り立つとき、\[f(t)\equiv 0 \quad t\in[a, b]\]となる。

(証明)背理法で示す。\(f(t_0)>0\)なる\(t_0\in(a, b)\)が存在したとする。\(f(t)\)の連続性から、\(f(t)\)は\((a, b)\)に含まれる区間\((c, d)\)において正となる。ここで、\(\eta(t)\)として、

\[\eta(t)=
\begin{cases}
=(t-c)^3(d-t)^3 \quad t\in(c, d) \\
=0          t\in(c, d)
\end{cases}\]

を導入してみよう。明らかに\(\eta(t)\in C^2[a, b]\)である。よって、

\[\int_a^b f(t)\eta(t)dt=\int_{c}^{d} f(t)\eta(t)dt>0\]

となり、これは矛盾である。よって補題が示せた。

 このデュ・ボア・レイモンの補題より、\(S_1=0\)ならば、オイラー・ラグランジュの方程式(Euler-Lagrange equation)

\[\frac{\partial L}{\partial x}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}=0 \]

が成立することがわかる。

 ところで、運動方程式は一般に二階微分方程式として、

\[A(x, \dot{x},t)\ddot{x}+B(x, \dot{x}, t)=0\]

と書ける。例えば、調和振動系は\(A=m\)、\(B=kx\)である。また、今までやってきた線型2階微分方程式系は\(A=1\)、\(B=a\dot{x}+bx \)であった。そして、このような力学系がVariational(つまり、力学系または二階微分方程式系が最小作用の原理の観点から定式化可能)であるとは、

\[A\ddot{x}+B
=\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}-\frac{\partial L}{\partial x}
\]

なるラグランジアン\(L=L(x, \dot{x}, t)\)が存在することである。

 ここで力学系、または、二階微分方程式系がVariationalであると何が嬉しいのか?つまり、ラグランジュ力学の枠組みに言い直すことが出来ると何が嬉しいのか?と思うかもしれない。以下で、ラグランジュ力学のセールスポイントを挙げておこう。

〈その1〉

 最小問題(というより極値問題だったが)という定式化の方が深遠でなんだかカッコよい。

〈その2〉

 座標変換に対して、オイラー・ラグランジュ方程式は不変に振舞う。そのため、座標変換を行いやすい。一方、ニュートン力学の運動方程式の成分表示は座標変換で大きく形を変えるので、毎回計算が大変だ。例えば、Cafe Lagrange雨読編NO8でやったように\(x-y\)デカルト座標から\(r-\theta\)極座標へ変換するのは大変だった。これに対してオイラー・ラグランジュ方程式は以下のように\(x\)、\(y\)、\(\dot{x}\)、\(\dot{y}\)のところを、\(r\)、\(\theta\)、\(\dot{r}\)、\(\dot{\theta}\)で置き換えるだけだ。

  \(x-y\)表示の時 \(\displaystyle
\begin{cases}
\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}-\frac{\partial L}{\partial x}=0 \\
\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{y}}-\frac{\partial L}{\partial y}=0
\end{cases}\)   

  \(r-\theta\)表示の時 \(\displaystyle
\begin{cases}
\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{r}}-\frac{\partial L}{\partial r}=0 \\
\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{\theta}}-\frac{\partial L}{\partial \theta}=0
\end{cases}\)

ただ、ラグランジアンの書き換えはあるが、それも一階微分量までなのでそんなに大変ではない。運動方程式の場合は加速度がベクトルでかつ二回も時間で微分しなくてはならないので、これが大変だったのだ。

 うるさいことを言うと、時間変数\(t\)について、変換するとオイラー・ラグランジュ方程式は顔つきを変えるので、完全に不変にはなっていない。時間までも含めて(アインシュタインの相対論の思想に合うように)不変にするにはフィンスラー幾何学の枠組みにラグランジュ力学を埋め込むことになるが、これについてはいづれ述べることにする。

 もうちょっとうるさいこと言うと、運動方程式をベクトル表示ておけば、これは座標変換に寄らない記述である。

\[ m\boldsymbol{a}=\boldsymbol{F} \]

 ただ、我々は具体的な計算をしようと思うと、ベクトルを成分表示しなくてはならず、この成分は座標変換と共に値が変わる。この値の変わり方(顔つきの変わり方)を調べるのが毎回大変なわけだ。オイラー・ラグランジュ方程式はこの成分ごとの運動方程式を出してくれるが、この顔つきが座標変換で変わらないという利点があるわけだ。

〈その3〉

 ネーターの定理に代表するように、保存則の議論が容易にできる。一次元の力学系で独立な保存則を二つ発見できたなら、この力学系は解けたと言ってよいわけである。だから、運動方程式を二回積分することを考える代わりに、一回積分したたけの保存量を二本見つけ出すことに専念するという方向性もあり、これにはラグランジュ力学は向いている。

〈その4〉

 ニュートン力学で登場する無定義語の『力』(ベクトル量)を書き込む必要がなく、運動エネルギーから位置エネルギー(スカラー量)を差っ引くだけなので、簡単にラグランジアンが構成できる。後はオイラー・ラグランジュ方程式にラグランジアンをぶち込めば、運動方程式も再現してくれる。垂直抗力や糸の張力などの拘束力は、拘束条件付き極値問題として、ラグランジュの未定乗数法として構成できてしまうのも美しい点だ。

 このようにラグランジュ力学はニュートン力学より色々な意味で美しく便利である。しかし、このラグランジアンがどのような二階微分方程式系にも存在するのか?ラグランジアンの形はいつも「運動エネルギーから位置エネルギー引いた」ものなのか?ラグランジアンとはそもそも何者なのか?などの疑問が浮上する。

 まず、最初の疑問は『ヘルムホルツ条件(Helmholtz conditions)』という条件が発見されており、微分方程式系にラグランジアンが存在するための必要十分条件を与えている(この証明は大変だけど、いづれ述べないとなあ!)。次の疑問は、一つの微分方程式系を与えるいくらでも異形な、「運動エネルギー引く位置エネルギー」という形からは程遠いラグランジアンがいくらでも存在しているのである。物理的には一つの性質の良い、つまり、「運動エネルギー引く位置エネルギー」という形のラグランジアンがあればそれでよいのかもしれないが、防人としては誰にも顧みられることなくひっそりと佇む異形のラグランジアンに光を当て、その数学的な意味を少しでも明らかにしたい!異形のラグランジアンを少しでも多く求めて、そのマニアコレクターとなりたい‼それに、ポテンシャル力のように位置エネルギーが存在する性質の良い力だけならラグランジアンを構成しやすいが、空気抵抗力のように位置エネルギーがない散逸力の時はどうするのか?つまり、二階微分方程式系で『\(a\dot{x}\)』の項があるときはどうするのか?このような時、異形のラグランジアンに頼らざる負えなくなるわけなのだから、「運動エネルギー引く位置エネルギー」という良家の子女的ラグランジアンだけを信望していては太刀打ちできないではないか。まあ、僕が昔研究していた素粒子理論では、自然界の力は究極的には四つと思われていて、それらは皆保存力で位置エネルギーが存在しているので、ラグランジアンの構成にはあまり苦労しない。だから、異形のラグランジアンに興味を持つ研究者はほとんどいなかったという現実がある。まあ、兎に角、これらの事を本ブログでこれから長々と述べていこうと思っているわけで、中には本や論文にも載っていない異形のラグランジアンや保存則をも紹介していきたいと思っている。そうする中で、ラグランジアンとは何者なのか?という最後の疑問にも答えていくことになるのではないかと思っている次第である。次回は、調和振動子を例にこれらの事をもう少し具体的に述べていきたいと思う。

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