2018年秋頃(この年の夏にドイツ旅行に行った)から、息子との山城巡りが始まった。最初に訪れたのは彦根の佐和山城。その後、毎週日曜日には滋賀、岐阜、愛知、静岡、三重のどこかの山城を目指し、クーラーの利かなくなったパジェロZR3000㏄で出かけることが多くなっていった。それとともに運転への情熱も復活していき、行きは効率的に高速を使ったが、帰りは下道ドライブを楽しみながらのんびり運転するというスタイルが形成されていった。おいしそうなケーキ屋さんを見つけると、ロールケーキ(転がっても大丈夫だから)を買って帰るというのも習慣化した。秋、冬、年が明けて春はまだクーラーのことは気にならなかったが、梅雨に突入するごろからは次第にムシムシして不快になり出すので、クーラーガスを入れ替えてもらうのだが、一カ月弱で抜けてしまうようになってきた。知り合いの整備工場で聞いてみると、社外品でクーラーのコンデンサーを交換して10万円くらいらしい。そんな時である、奥さんにディフェンダーの話を切り出したのは。
「クーラー10万円くらいだって。20万キロも越えてそろそろディフェンダーとかどうかね!」
「ハイハイッ!冗談言っていないで‼我が家には分不相応だから」
「新型が発売されるみたいだよ」
「本気で言っているの!ふざけないで頂戴。娘がこれから大学で、息子だって塾代とかかかり出すのにそんなもん買えるわけないでしょう‼」
”実は埋蔵金が…”と言いかけてぎりぎりで飲みこみ、この話は今はまだ早かったか。鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス的家康君に習ってここは大人しくしておく方が賢明であると判断。いろいろ言葉が出かかってくるのを必死で抑え続けた。これ以降、我が家では”ディフェンダー”という言葉が禁忌となってしまったのだ。
この年の夏(2019年)、パジェロの生産中止が決まり700台限定のファイナルエディションが450万円で売り出された。まさかパジェロが生産中止になるなんて、初めてパジェロを買ったSUVブーム全盛の時には想像することはできなかったなあ。その一年後の2020年、我がパジェロの症状はさらに悪化、一速、二速でアクセルを踏んでいくとガックンガックンと激しく揺れ動くようになった。エンジンの温度もそれまで中央を指していた針が上昇し始めた。我がパジェロのエンジン内で何かが起こり始めていた。タイヤもすり減ってきたしバッテリーの衰弱も顕著になってきた。CDも聞けなくなりラジオばかりになっていたし。整備工場では「70万くらいかかるけど(これにクーラーの修理費10万、更に、タイヤ代か…。更には車検もあるぞ!)、復活するかどうかわからんよねぇー。25万キロも乗れば十分じゃあないですか。そろそろ、買い換えたら!」と言われる始末だった。
そこで見つけたのが、ネットに上がっていた2011年式パジェロGR 5MT 3000cc 200万円という物件である。これなら、MTとしては一番新しい年式だし、走行距離がたった4万キロである。早速奥さんにこの話を切り出すと、
「いいんじゃない。但し、これでディフェンダーとかはもうなしだからね。わかった」
「わかっていないけど…、とにかく今のパジェロの修理費と行く末を考えれば、こちらのパジェロに乗り換えておく方が無難だと思うね。修理工場のSさんもそう言っているし。まあ、とにかく見てくるわ」


こうして我が家には三台目のパジェロがやってきた。しかし、前のオーナーはクラッチ操作がヘボクソだったのか(自分のことは棚上げだが)、たった4万キロでやけにクラッチが遠い。色も僕の好きなブルーではなく、ブラックマイカ(「まっイイかッ!」クーッ‼オヤジギャグ言いたくなるのよねえ)だし、リヤデフロックも装着されていていないし、寒冷地特別仕様でもない。そのせいか、今度は冷房でなく暖房の効きがいまいち。また、すべてのシートに後付けで黒の合成皮革のカバーが付いている。僕は皮製品はあまり好きではなく、ファブリックが好みなのに。中古とは前のオーナーの運転癖や好みが反映されているのだなあといまさらながらに痛感し、このパジェロに感情移入できるか不安を覚えたのだった。ただ、タイヤはほぼ新品のBFGoodrichのATタイヤが装着されていて、これは幸運だったか。
2019年の11月、ランドローバー社はDefender Launch Editionを限定150台で先行予約を開始し、翌年の2020年からは通常のカタログモデルの販売を開始。第二期(⁉)SUVブームと相まって新型ディフェンダーは大人気。半年以上の納車待ちとなっていたようだ。そんな世間の状況を横目に、僕は粛々と中古で購入したパジェロで息子と山城に出かけて行った。まさか、二年後に自分がDefenderを運転していることになるとは、この時点では想像だにできなかった。
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