岩古谷山に登った一週間後の水曜日、再び和市の駐車場に僕とさきもりちゃんはいたのだった。前回の岩古谷山と反対の平山明神山(970m)・大鈴山(1012m)・鹿島山(912m)を縦走するつもりだったのだ。天候は残念なことに朝から強い雨が続いていた。幸運なことと言えば、車から降りて登山準備をする間は雨が小康状態だったということだろうか。13曲がりの登山道を駆け上がり、堤石峠に到着。今回は左折して、平山明神山方面を目指す。入り口の所には看板が・・・。

堤石峠に到着。右に行くと岩古谷山。平山明神山へは左折だ。

ルート入口には登山者に注意を促す看板が。今日は雨で、フリクションが低下するので気を引き締めて登山道に突入する。
この付近は滑落事故などが多く、去年も滑落による肺挫傷で登山者の方がなくなっているらしい。それに今日は昨日から雨が降り続いており、石が濡れていて滑りやすい。慎重に行動しなくては。歩き出してすぐに石英安山岩の露岩体を急登・急降の連続となる。
「流石、弩級登山道だぜぇッ!」
ルートのテープもわかりにくく、時に正規ルートを外していたのかもしれない。不安定な急斜面のトラバース、かなりきつい岩場のクライミングを余儀なくされ、集中力を使う。至る所、フィックスザイル、鎖場などがあるが、僕的にはこのようなものは使わず、直に岩をつかんで登るのが好きだ。

手前にピンクのリボンがあるが、その後はテープはない。好きなところを登れということか。僕は黄色のルートを攀じ登った。

晴れていれば気持ち良い岩登りだけど、雨で濡れていてトレッキングシューズはよく滑る。ヒヤヒヤの山登りが続く。

嫌なところに出てしまった。鎖とザイルがあるが、これを使うと遊びがあるので、体勢を崩しやすい。あくまでも岩をもってクライムダウンするが、ツルッとやったらアウトだ。途中からは固定ザイルを使って懸垂下降の要領で降りることにした。

下から見ると大したことないが、上からは結構高度感があった。上部は横にへつり(剣岳風に言うと、かにの横這い!)、下部は真下に降下(かにの縦這い‼)するのが正規のルート。しかし、雨が降っていると滑りやすいので注意が必要。

ここは真ん中の落ち葉がたまった窪地を登る!上部は木の根っこをつかんで!集中力のいる登山が続く。

大鈴山への縦走路から右折し、痩せ尾根を行くと奥三河のジャンダルムと言われる明神山の姿が霧の間に見え隠れするようになる。
明神山山頂直下には見晴らしの極めて良いナイフリッジが現れる。ただ、今日は風雨強く、視界なし。最悪の状況に腰が引けてしまった。特に、山頂への登りの場合、この部分はナイフの上を降下することになり、濡れた岩が滑りそうでしり込みしてしまったのだ。頂上に向かって左(写真右方向)は垂直に切れ落ちていて、堕ちたら即死。右側(写真左)は、出だしの斜度はほどほどだがすぐに断崖となるので、こっちも堕ちたらヤバい。その上、強風にあおられているので体制極めて不安定なので、度胸と根性が試されるのだった。ここを通過しさえすれば明神山山頂はすぐそこだ。

明神山山頂直下にあるナイフリッジ。左右どちらも堕ちたら即死だ。左側は大したことないと思うかもしれないが、全然大したことあるのだ。ツルっとやった瞬間に人生のゴールを迎えてしまう。この写真は明神山側から見たもの。つまり、明神山山頂を目指すときは写真上から下に向けて真ん中を降下するのである。雨に濡れて、風も強く体がヨタヨタする状況ではもうほんとピヨピヨ状態となり、腰が引けた。まあ、誰もいないのでへっぴり腰で降下したのだった。

やっとの思いで明神山頂だ。昼飯食べるには風強く寒いので食欲なし。滞在時間は30秒くらいで引き返す。

先ほどのナイフリッジを今度はクライムアップ(これは割と簡単だ)したところで水墨画の世界に出会う。正面は大鈴山かな。思わずパチリ。

大鈴山への縦走路に戻って少し行くと、雨風しのげるナイスな場所を発見。昼飯タイムにする。

今日はエビチリ丼だ。冷えた体を温めるため、まずはお湯を沸かし、スープを作る。それを飲みながら、チャーハンを炒める。

緊張感の連続で体力消耗したので、お腹が空きました。体も冷えたけど、この場所は暖かく感じるとても良い場所だった。悪天候の日には最高だ。

グミンタ峠の鞍部を越えると、大鈴山への急登となる。大鈴山はこの周辺の山域では1000mを越えている。

大鈴山山頂は南側に視界が開けていて、三瀬明神山、平山明神山、南アルプスなどの眺望が効くようであるが、今日は見ての通り霧の中。休息もせず、すぐに鹿島山に向かう。

大鈴山・鹿島山間の縦走路はアップダウンも少なくのんびりとした山歩きが楽しめる。緊張感もなく歩いていたら、二回もこけてしまった。イカン、イカン!

鹿島山山頂は視界は無いが、林の中に安山岩の露岩があり、岩の上で休息するにはもってこいの場所。お菓子をポリポリと食べる。

鹿島山から降下すること30分、和市の駐車場のさきもりちゃんが見え隠れし始めた。「無事帰還しましたぞ」。
今回の山行は久しぶりにドキドキワクワク感を味わったような気がする。若い頃、黒部上之廊下遡行、金作谷遡行、などの沢登のドキドキと同じように感じたのだ。まあ、若い頃に比べ最近はビビりになっている自分を感じるが、これも年を重ね執着が増えたことによるものなのか。兎に角、このルートは初心者同志、パーティーに初心者がいるような場合(特に雨の日は)は踏み込まない方が良いだろう。何と言っても、弩級ルートなのだから。
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