まことに不運な男が、開化期を迎えようとしている。「不運」といえば、今年初年の防人ほど不運な男はなかったであろう。父の相続金としては200万円しかなく、愛車のさきもりちゃんは三度目のエンストを起こし、幸運と言えばこの5カ月の間20㎝以下の魚がかろうじて釣れるには釣れて、ボウズと言うことが無かったことくらいであった。
水曜日の朝、トクチンが学校に出発、奥さんも仕事に邁進、防人は家にいても仕方がない様子なので、ヒッソリと釣り竿を代車ディフェンダー君に積んで、家を出た。目的地は寒狭川水系島田川。この前、彦坊山に登った時、通りがかりのフライフィッシャー(西洋的毛バリ釣りをたしなむ人)に、ルアー・フライ専用区(魚はキャッチ&リリースが原則で、塩焼きにして食べてはいけないということ)の存在を教わったのだった。
「良いサイズの魚も割といますよ」
との魅惑的なお言葉に、ナイスなアマゴちゃんを釣り上げて、ブログで自慢節さく裂だ!的欲望にまみれて、現地を目指したのである。豊田から国道301号線で作手に行く道程は、僕の大好きなクニャクニャ道が散りばめられていて、飽きがこない。名古屋の家から現地の島田川に入渓する場所(釣りを開始する場所)まで、丁度二時間だ(高速使うともっと早いが、運転がつまらないよね。というより、防人はディフェンダーを買ってしまったから万年金欠なので、高速をなるべく使わないようにしているという説も)。

路肩に代車ディフェンダー君を駐車して、釣の準備を開始する。この瞬間のワクワクがたまらない。少年時代と全く同じだな。

溪に降り立つと、新緑が美しかった。ウェーディングシューズ越しに感じる水はあまり冷たくない。魚の活性は高いはず!

20㎝くらいのアマゴちゃんが来るが、なかなか、フッキングしない。多くの釣り人に攻め立てられて、学習しているのだろうか。

入渓したてに、二匹ほど釣れたが、それ以降はちびアマゴちゃんが毛バリに遊びに来るだけ。良型アマゴはいないじゃあないか。
入渓して釣り始めると、毎日毛バリ釣りの人に攻め立てられているようで、出方が素早いし、毛バリを見切って、相手にしてくれなかったりで、うまく釣りあげられない。釣り糸(ティペット)をより細く、長くして、毛バリのサイズを小さくしてみると、今度は自分が投げた毛バリの位置がわからない。昔はこんなことなかったのに、随分とへぼくそになったものだ。とても苦労して、20㎝弱のアマゴちゃんや、5㎝くらいの超チビアマゴを数匹釣って、昼を過ぎてしまった。今日もこのまま終わりかなあと思いながら防人にとって大事な昼飯の時間を楽しむ。食べ終わり、時計を見ると1時50分だ。後、40分ぐらいしかない。夕方はお家で家族の夕飯を7時ごろまでには作らないといけないので、若い頃の様にいつまでも谷をほっつき歩いてるわけにはいかないのだ。昼飯の後片付けをして、リュックを背負って、5mほど歩くと、ナイスなポイントを発見。手間に強い流れがあるが、その向こうのレーンを流せば(毛バリをナチュラルドリフトすれば)、きっと出るに違いないと確信した。イメージした場所へ毛バリを投げ込み、毛バリが着水する直前に手前のラインをメンディングして強い流れに押し流されるのを防ぐ。着水後もメンディングをして毛バリを流し込み、三回目のメンディングした直後、毛バリに水しぶきが上がる。一呼吸おいて合せを入れると、手には重みのある手ごたえが伝わり、脳みそが蒸発。

午後一時過ぎに昼飯タイムにした。ガーリック風味のバターライスを前もって作っておいて、それを現場で温めて、それに「銀座のカリー」をかけて食べる昼飯。いつもと同じで、変わり映えしないねえ。昼飯後、残りの釣り時間は40分ぐらいだ。今回も20㎝弱で終わるのかなあ!

最期に来ましたよ。25㎝を優に上回る28㎝のアマゴちゃん。ようこそお出で下さいました。最近釣りを再開したのだが、その中では最大級だね。防人は天才かもしれないぞ。

白泡のあたりにフライ(毛バリ)をプレゼンテーションして、黄色丸の地点でフライに飛び出してきた。手前の強い流れをメンディングでしのいで、極めて美しくフライをドリフト出来たのであった。

有終の美を飾って、意気揚々と代車ディフェンダー君の所に帰還。帰り道の運転でも、アマゴ君とのやり取りの感覚が蘇って来て、ニタニタしながら運転していたのだった。
帰りのドライビング中、『天才』、『不世出』、『SVクラス』、『100年に1人』、『孤高の人』、『大器晩成』、『開化期を迎えた防人』といった言葉たちが脳裏をかすめる。これらの言葉はすべて防人のことを表すために、作られたとしか思えないのだがどうだろうか。
注意 『SVクラス』はM田さんにより明らかに防人のことを表す言葉として認定されている。但し、この場合、珍人度合いを表す意味で使われている。
《追記1》今回は遊漁券を”つりチケ”で購入してみた。現地で遊漁券を売る場所を探してウロウロする時間を節約できるし、いつでも購入できるしとても便利であった。ただ、ダウンロードされた遊漁券を印刷しなければならず、それが結構面倒だ。防人は奥さんにやってもらった。
《追記2》渓を釣り上がっていたら、鳥(種類はわからない。防人は鳥は鳩、カラス、フクロウ以外は区別がつかないのである)が今まで聞いたことが無いような声で鳴いている。何か鬼気迫るものを感じたので、釣り人のおっさん(防人のこと。実はお兄さんと思っているが)がテリトリーにやってきたので、威嚇しているのだろうか。しかし、何だか様子が変なので、注意深く周囲を見渡してみると、数メートル先にヘビゴンが横たわっているではないか。そのヘビに向けて、鳥が果敢に接近し激しく威嚇していたのだ。きっと、巣が近くにあって、その中には赤ちゃん鳥がいるのだろう。親鳥の必死な様子にいたく感銘を受けたのだった。防人も蛇殿は苦手である。足の数は6本までが限界で、それ以上になるとヤスデやムカデは超超苦手、非可算無限個の足を持つヘビは究極的に苦手で、なんだか、彼らとは話し合いができなさそうなところが、人知を超えた存在が、恐怖を感じさせるのである。しかも、このヘビゴンは防人の進行方向に横たわっているではないか。こうなれば、鳥君と同盟を結び、蛇にどいてもらうしかない。釣り竿で、蛇のお尻(?)をチョンチョンと突っついて、川から退場してもらった。
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